P・D・ジェイムズ『死の味 上下』(2)

ベロウン卿は殺された教会に泊まったことがあった。今回もその教会に自分から出かけていたのだ。国務省の事務官として働いている愛人はベロウン卿と本当に愛し合っていたが、教会の話を聞いたときふたりの仲は終わったと感じたと語る。
上流階級である家族から雇い人まで話を聞いてまわるうちにだんだんとベロウン卿の家庭の事情と私生活が明らかにされていく。

3人の捜査官が訪れた屋敷や部屋の描写が細かくて、趣味のよいインテリア雑誌を見ているような部屋があり、狭いながらも片付いている部屋もある。暖炉やソファや壁にかかった絵や写真の描写が繊細で目に見えるようだ。窓から見えるテームズ川の様子とかも。
貴族の称号を持つ雇用者と、そこで働く雇われ人の間がふだんは階級社会として機能しているのだが、事件があり警察官の聞き取りがあるとほころびはじめる

ケイトは父を知らず母を早く亡くして祖母に育てられたが、働き出してからは祖母の部屋を出て自立している。そこへ祖母が倒れたと通報があり、自分のフラットに引き取る。事件はその部屋にまでおよぶ。犯人と争っているとき恋人のアランから電話がかかる。

ダルグリッシュが出向いたところで、わたしが気に入っているのは雑誌編集者のアクロイド夫妻を訪ねるところ。ネリー夫人が伯父から受け継いだ端麗なエドワー朝時代の屋敷に行くと、夫妻は気持ちよく迎える。ネリーは20年、30年代の女学生物語の収集家である。ダルグリッシュはだいぶ前に初版本を古書店で見つけてあったのを渡すと、ネリーはまだ持ってなかった本なので喜ぶ。アクロイドは今度、詩人兼刑事ダルグリッシュと麗人コーデリア・グレイという組み合わせで食事するシーンを自分の雑誌のコラム欄に載せたいという。(コーデリア・グレイがこうして会話に出るほど活躍してるのがわかってうれしい。)
(青木久恵訳 ハヤカワポケットミステリ 上下とも880円+税)