いのちびろい(わたしの戦争体験記 20)

疎開して国民学校4年生の2学期から学校へ通うようになった。村の名は後屋敷村だったけど校名は後屋敷小学校ではなかったような気がする。なんて名前だったか全然覚えていない。もしかしたら日下部小学校だったかしら。鉄道駅が日下部だったから。

学校から帰ると道を隔てた農家のK子が遊びに来てそのままうちにいることもあり、どこかへ連れ出すこともあった。他の子も連れ立って女子グループで小遠征することもあった。ある日、連れ立ってけっこう大きな川へ行った。もしかしたら笛吹川だったかもしれない。ちょうど男子グループがいて川に渡してある太い丸太の上を次々に渡っていた。軽業師みたいに軽々とうまい。親分のような少年が指図していて「女子も渡れ」といった。その瞬間にわたしは落ちて死ぬと思い、「もはやこれまで」と時代劇のようなセリフが頭に浮かんだ。女子たちも慣れたものという感じで渡って行った。とうとう最後にわたしの番になった。丸太に這いつくばっていくしかないと覚悟を決めてじっと川と丸太を見つめていると、リーダー少年が「今日はこれで終わるづら」と声をかけ、みんなを戻らせた。

あんなにほっとしたことは生涯であの一回だけ。わたしはあの声のおかげで一命を取り留めて今日も生きている。わたしが落ちたら親や先生に怒られると思って、彼はあの命令をくだしたのだろう。