歯は自然のままに

こどものときは歯磨きしたのか覚えがない。山梨に疎開したときは歯ブラシを何本か持っていったが、それがすり減ったあとは代わりがなかった。そんなことで歯磨きをたいしてしないのに歯がいままでもったのは戦中戦後の成長期に甘いものを食べなかったせいだろう。

「8020(ハチマルニイマル)運動」というのがあって、80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という運動だとのこと。

わたしはめでたく80歳を迎えたとき全部自分の歯だった。あちこち虫歯の治療はしてあるが、全部が自分の歯といえてうれしかった。それから3年、3ヶ月ごとに歯医者さんから案内がきて、歯を清潔にしてもらう。悪いとことがあれば治療してもらっていた。

3年ほど前に一度御堂筋で転んで前歯が欠けて入れ歯になったが、それ以外は自分の歯である。今日は悪い歯を治してもらいに行ったのだが、病気がずいぶん進行していて治してもしょうがない状態だという。その他にも同じようなところがあり、もう治療が効かないそうだ。ほおっておいて自分から抜けるの待ちだって。

そこまで院長先生の見立てだが、そのあと歯を清潔にしましょうと歯科衛生士さんに変わった。彼女が「8020(ハチマルニイマル)運動」を知っているでしょうね。と聞いて、「すぎやさんはそれを通り越しているじゃないですか」という。確かに目の前にはコンピュータ画面に、わたしの名前と年齢があって、口中の写真がある。「話していると、30代の人かと思いますけど」というので、それはなんぼなんでも褒めすぎやわといって笑った。自前の歯で話すと若い声に聞こえるんだって。

あとはもう、自然のままに。