東京の寄席で林家三平さん

60年くらい前の話。
東京で仕事をしていた兄が呼んでくれたので、年末から年始にかけて1週間ほどひとりで遊びにいった。はたちくらいのときだ。夜行列車の三等車で夜の8時頃から硬い椅子に座りっぱなしで翌朝東京駅に着いた。乗り換えて大森で降りて地図を片手に探しながら兄の家にたどり着いた。
兄は結婚していて長男が生まれていた。仕事がうまくいって生活がやれやれとなったところで、大阪で雑用させていた妹を慰労してやろうと思ったみたい。

着いてから毎日のように戸越銀座の寿司屋さん、銀座のそこそこのレストランなど嫂さんに連れて行ってもらった。1日かけて自動車で鎌倉へ行ってもどった。
東京の寄席に連れて行ってやると、連れて行ってくれたのが、◯◯亭とか名前を書きたかったのだが忘れてしまった。長老の人が最後に出て、その前だったか、林家三平さんが出てきて冗談をばらまいた。お客さんをネタにして「これは冗談ですから」とか、「ここだけの話ですよ」とか親近感をあおりながら話を続ける。

ふだん必死で働きようやく正月休みになった兄の家に1週間も泊まって申し訳なかったといまになって思う。当時はそれだけ東京と大阪の間には距離があり、泊めてもらうのは兄妹だから当たり前みたいな気持ちがあったのだと思う。いまは誰もきょうだいの家に何日も泊まったりしないだろう。

それからも東京へ行った時は寄るようにしていたが、泊まるのは友人宅にして兄宅には顔見せだけにした。でもどこかへ行った帰りに突然おじゃまするほうはいいが、されるほうはたまらんね。