ひとりで留守番

こどものときから一人で留守番するのが好きだった。
戦後の住まいは辺境になったので昔のようにはいかないが、それでも「おおい、出かけるぞ」と父が叫び、母と子供達はわーわーいいながらついていった。昼間だと阪急電車に乗って梅田へ出て、歩いて天六商店街へ行った。または市電か地下鉄で難波か日本橋へ出て新世界へ行った。けっこう遠いのに平気で出かけたものだ。父の入るところは古本屋か古レコード屋に決まっていた。たまに古着屋に入り古着を買ってくれることもあった。

夕方だと近くの商店街の古本屋か道路脇で商いしている古雑誌やぞっき本の店をのぞいた。裸電灯の下でミステリーを漁る楽しみを覚えた。「金魚のふん」といわれながら、兄弟姉妹は上から順にへばりついて歩いたものだ。
わたしはみんなでわいわいするのも好きだったが、ひとりで留守番するのが好きだった。用事を言いつけられることもなく、マイペースでおやつをつくって食べた。まだガスがきてなかったから、七輪に火を起こしてフライパンをのせ、メリケン粉を水で溶いて丸く焼く。卵と砂糖があれば上等だ。おもむろに食べて片付けて、それこそ何食わぬ顔をして鏡を見る(笑)。

「これはまだ早い」と父に読むのを止められている本を読むのも楽しみだった。座布団を2枚並べた上に平べったくなって本を読む。禁じられた遊びを楽しんだ。
みんなが帰ってくるころにはきちんと片付け何食わぬ顔でお土産ちょうだいと手を出した。貧乏だったけど明るい我が家だった。
いまもひとりで留守番するのが好きだ。