ヴィク・ファン・クラブ会員のYさんが読んで「良かった」とSさんにメールし、Sさんがそんなに良いのならと買って読んで、わたしにまわしてくれた。初めて読むドイツの女性作家ネレ・ノイハウスの作品「深い疵」をそういう縁で読み終えた。
ホーフハイム刑事警察署の主席警部オリヴァー・フォン・ボーデンシュタインと同警部ピア・キルヒホフのシリーズの3冊目。
地図を見るとホーフハイムはフランクフルトに近い町で、最初の被害者についての説明にフランクフルト近郊に家を購入したとある。
ゴルドベルグはホロコーストを生き残りアメリカで大統領顧問をつとめていた著名なユダヤ人だが、60年を過ごした国からドイツに戻ってきた。大きな屋敷に有能な介護士を雇って住んでいる。
明日の朝まで介護士を休暇に出したあと彼は来客を待っていた。小娘だった彼女が85歳とは信じがたい。彼がドイツに戻ってきた最大の理由は彼女だった。玄関のチャイムが鳴り喜んで彼はドアを開けた。
オリヴァーとテレビレポーターの妻コージマには23歳の息子と19歳の娘がいるが、いまになって赤ん坊が生まれた。コージマはベビーキャリーに入れて仕事に出かけている。
土曜日の朝、ピアから事件だと電話がかかった。被害者の名前はゴルドベルグ。出かける支度をしながら大物らしいとオリヴァーが言うと、コージマは半年前にアメリカから移り住んだ人でレーガン大統領の顧問だったと答えた。
マルクス・ノヴァクはフランクフルトの中心に建つ教会にいる。とんでもないことをしたという思いで教会に足を踏み入れたのだが、神に許しを乞う資格などないと思う。あのときどれほどの快感に酔いしれたか思い出す。妻やこどもたちや両親が知ったらけっして許してくれないだろう。だがまた機会があればまたこの罪を犯すだろう。
老人は玄関ホールでひざまずいて死んでいた。鮮血と脳髄がホール中に飛び散って、大きな鏡に「16145」という数字が読めた。テーブルには小型車が1台買えるほどの高価なワインが置いてあった。
連続殺人事件のはじまりである。
ここで気がついたのだが場面転換が早い。映画のように場面が変わるのだ。それも1行空きで違う場面で違う登場人物だから最初は「ええっと」と思った。そのうちに慣れてふんふんと読めるようになった。
(酒寄進一訳 創元推理文庫 1200円+税)