吉田喜重監督『エロス+虐殺』日陰茶屋事件

画面には「春三月縊り残され花に舞う」と大杉栄が詠んだ句が浮かぶ。

無政府主義者 大杉栄には妻の堀保子と以前からつきあっていた神近市子がいて、新しく出会った伊藤野枝とも関係ができる。
大杉と野枝には生活力がなく、市子が働いたお金を貢いで生活が成り立っている。
映画「エロス+虐殺」は1916年に起きた日陰茶屋事件を中心に描かれている。
実際の事件は葉山の日陰茶屋に滞在している大杉を神近市子が刺し重傷を負わせる。市子は海岸で入水自殺をしようとしたが死ねずに、ずぶ濡れ姿のまま交番に自首した。野枝は市子が来たときに東京へ帰って行った。

映画では、野枝が日陰茶屋に戻ってきて3人の長い会話と絡み合いになる。
3人の交わす会話と動き、特に日本座敷の障子や襖の開け閉め、次々と倒れていく白い襖に圧倒される。

昨日、この映画を見て「日陰茶屋事件」ってあの・・・と思い出した。関東大震災のとき、わたしの両親はまだ新婚で祖母とともに東京に住んでいたが、地震で家がつぶされ、近所の神社の大木の根元で夜を明かしたと言っていた。震災から年月が経って生まれたわたしだが、こどものときから震災と大杉栄たちのことを知っていた。苦労話をするときセットで語られたからである。主義者や朝鮮人に対する流言飛語が飛び交ったこと、大杉と伊藤野枝と甥の3人が甘粕大尉らに虐殺されたことは震災の苦労とともに語られ、昨夜わたしは久しぶりに亡き父母の話しぶりを思い出した。