水村美苗「母の遺産 新聞小説」(1)

何週間か前の「週刊現代」の文芸欄に紹介されていたのを読んで買った。水村美苗の本はもうええわと思っていたのだが、「母の遺産」という言葉に惹かれた。水村さんのお母さんは80歳近くなって「高台にある家」でデビューされたが〈文学少女〉そのものなのだ。そのお母さんの遺産てなんだろう。

わたしが水村美苗を知ったのは「續明暗」を読んで感激してからだから長い。漱石はどう思うか知らないが、当時は「明暗」の結末はこれしかないと思ったものだ。ついで「私小説」を読んでアメリカの有名大学を出て有名大学で教えている大インテリに「ははーっ」となっちゃって(笑)。そしたら朝日新聞に辻邦生との往復書簡が連載され、わたしはガーリッシュな読書案内にしびれた。毎週切り抜いていたもんね。すぐに本になったのもすぐに買った。ついで「本格小説」が「群像」に連載されたときは毎月待っていて買って何度も読み、単行本も買って何度も読んだ。
ここまでは大ファンと大きな声でいえる。そのときに感想を書いていたらよかったのだが。

2006年に「新潮」に載ったエッセイ「もう遅すぎますか? —初めての韓国旅行」を読んで違和感を覚えてから、水村熱が醒めてしまった。その後に日本語のことでネットで騒がれていたことがあったが読みもしなかった。
それから1年後に水村節子の「高台にある家」を読んだのだった。

「母の遺産 新聞小説」は芸者上がりの祖母が新聞小説を愛読していて、尾崎紅葉の「金色夜叉」に影響され、24歳年下の男といっしょになり、そのふたりの間に生まれた母の生涯が語られる。「高台にある家」は母の自伝的小説なのだが、本書はその母の死にぎわの姿が描かれている。主人公の美津紀と姉の奈津紀が看取るのだが、ふたりとも更年期だから疲れきっている。
美津紀は夫の机の引き出しから小さな華やいだティッシュカバーを見つける。
続きはまた。
(中央公論新社 1800円+税)