ダルジール警視シリーズ9作目になる「骨と沈黙」(1990)を先日買って今日二回目を読了。いつのもように一回目はストーリーを追ってとばし、二回目で細部を味わった。1994年のヒルさんの講演会のときは一冊も読んでなくて、その場で短編集(薄かったから)を買ってサインしてもらった。その次に読んだのが「骨と沈黙」だったが人に貸したままきれいさっぱり忘れていた。それにシリーズ途中の本を読んだのでなにがなにやらわからない。
本気になったのは図書館で借りた「武器と女たち」である。それからは真面目な読者だが、それでもジュンク堂であれっと未読本を見つけて買っていた。そのときはいいようのない喜びなので、これもいいかなと思うことにしていた(笑)。
エピグラムにヴァージニア・ウルフの「波」の一節がある。最後の言葉が「こういう舗道の下には、貝殻と、骨と沈黙が横たわっているのだ。」である。
物語の最初に謎の女からの手紙がある。ダルジールに宛てたものではっきりと自殺すると書いていて、確実に12カ月以内と新年の誓いのようなものだともある。
パスコーは前作「闇の淵」で炭鉱事故からあやうく生還したが、エリーと微妙な仲になったコリンは死んだ。パスコーは脚の怪我の完治を待って休んでいたが明日から仕事に行こうとしている。パスコーとエリーの間はまだ少しぎくしゃくしている。エリーは演出家アイリーン・チャンの広報の仕事を手伝っている。イギリス人の父と中国人の母を持ちバーミンガムで育ったチャンは素晴らしい美貌の持ち主で頭がよく人使いがうまい。次の芝居は中世史劇を野外を舞台にするべく画策していて〈神〉の役をダルジールにと考えている。
ある夜ダルジール警視は酔っぱらって帰りさんざん吐いたあと、狭い庭の向こうを見ると一軒の家の窓に裸の女性の姿を見かける。そのあとは破裂音で、ポルノ映画からアクション映画に変わったように事態は変化した。ダルジールは駆けつけるがゲイルは顔を撃たれて死んでいた。その場にいたのは夫のスウェインとゲイルの愛人ウォータソンで、彼女は自殺だったという。
ダルジールは以前彼らを見たときから虫が好かぬやつらだと思っていた。【偏見と職務が一致したときほど愉快なことはまずない。】
スウェインを逮捕するが、彼は自殺しようとした彼女の手にあった拳銃が暴発したのだと主張する。ウォータソンもそう調書に書いた。
ダルジールは殺人と確信して執拗に事件を調べる。弁護士とのやりとりなど老練な会話、警察長との軋轢もある。
パスコーは職場へ復帰するとすぐに警部から主任警部への昇進を伝えられる。
ウィールドはゲイであることをカミングアウトしたがふだんの生活はなんら変わらない。だが夜間に呼び出されて「ホモ野郎」と殴る蹴るの暴行を受ける。ダルジールがウィールドを精神的に支えるところがいい。
(秋津知子訳 ハヤカワ文庫 1000円+税)