あまりにも有名な修道士カドフェルのシリーズ。阪神大震災のころ、ミステリファンでない知り合いでさえ読んでいるのを横目で見ていた。最近でこそクラシックミステリもコージーものも読むけど、そのころはハードボイルドミステリ一筋だったから、勧められたら反対にヴィクシリーズを読むようにと勧めたものだ(笑)。
ヴィク・ファン・クラブ ニュース4月号の「ミステリ散歩道」 33回目で紹介されたのが11作目の「秘跡」だった。いまの社会状況のなかで疲れた心に寄り添ってくれる本と書かれてあった。それでこのシリーズには目をつむりっぱなしだったのに気づき買いに行った次第だ。お勧めの「秘跡」がなかったのでシリーズ第1作を買った。
予備知識なしで読み出したので大津波悦子さんの解説が役に立った。
エリス・ピーターズはイギリスの女性作家で1913年生まれで95年に亡くなった。カドフェル・シリーズは長編20作と短編集が1冊ある。カドフェルは12世紀イギリスのベネディクト会シュルーズベリ大修道院に所属する修道士で57歳。若い頃は十字軍に所属して戦ったことがあり、また沿岸警備船の船長もしていたこともある。いまは修道院付属の薬草園でさまざまなハーブを育てている。
イングランドとウェールズが併合されたのは1284年なので、本書の時代は併合前のことになる。シュルーズベリはイングランドのウェールズに近いところで、登場人物のカドフェルも修道院副院長ロバートもイングランドとウェールズの血を引いている。
シュルーズベリ大修道院では有力な聖人の遺骨を守護聖人に祀ろうとしていた。よその修道院には聖人の遺骨が祀られているのに、この修道院に聖人の遺骨がないという屈辱から遺骨探しに奔走するがなかなか見つからない。あるとき神経質な修道士コロンバヌスが発作を起こしたとき、夜中にそばについていたジェロームがすごいものを見たと報告にくる。美しい乙女がベッドのかたわらでコロンバヌスをウェールズの聖なる泉で水浴させるよう語ったというのだ。そこには聖ウィニフレッドの遺骨がある。それを手に入れよう。
聖ウィニフレッドを求めてロバートを中心に代表団の修道士たちは出発する。カドフェルも通訳として同行する。ウェールズに着いた彼らは当地の有力者リシャートに会うが、遺骨を渡さないと大反対され、まずいことにロバートはお金で解決しようとしてよけいに反発を買う。
(大出 健訳 光文社文庫 552円+税)