ルース・レンデル『わが目の悪魔』

さきにウェクスフォード警部のシリーズを読んでよかった。本書を最初に読んだら「もうええわ」だったかもしれない。レンデルの短編をひとつ「ミステリマガジン」で読んで「もうええわ」と言ったわたしである。うまいという点では最高なのだが、どこかイケズな感じがするところがどうもいけない。2冊読んだウェクスフォード警部ものは警部の人柄が良くて、犯罪はえげつなくてもすっきりと読めた。

主人公アーサー・ジョンソンの孤独な生活と性癖が、同じアパートに引っ越してきたもうひとりのジョンソン(アントニー・ジョンソン)の存在で狂っていく過程が描かれる。アーサーは厳しい伯母に育てられた。きちんとした服装でいること、室内を清潔にしておくことなどを躾けられた独身の中年男で、他の入居者とは一線を画している。アパートの地下室は荒れたままでだれも入って行かない。そこに置いてあるマネキン人形への行為がアーサーの隠し事である。上の窓から地下室への出入りを見られたらたいへんなことになる。

もうひとりのジョンソン、アントニーは大学の研究者だが人妻ヘレンと愛し合っている。アントニーへのヘレンからの手紙を間違って開封したアーサーは、それ以来ヘレンの手紙を開封して自分で書き直したのと入れ替えしたりする。アーサーの妄想がふくらんでいく。
アントニーはヘレン恋しさでいたたまれない。どうなるかと読み継いでいくと、最後はうまくまとまってほっとした。