先日、完熟のブラックベリーをたくさん自分の庭から収穫してきた人からわけてもらった。口に入れると甘くておいしい。ブラックベリーは昔から瓶詰めのジャムを買って食べていたが、採れたての熟れた実を食べるのは今回がはじめてだ。口に入れて「うまーっ」と叫んだが、このうまさって経験がある。母の実家の山梨県の桑畑で採って食べた味だ。
小学校4年の夏、一学期がすんだときに大阪市の小学校(そのころは国民学校)の子供たちは田舎に疎開させられた。縁故がある子は縁故疎開、ない子たちは学校からまとめて集団疎開だといわれ、わたしは一人で母の実家の山梨県に厄介になることになった。夏休みに母は下の弟を背負い、上の弟とわたしは上の姉と手をつないで合計5人で大阪駅から名古屋へ、中央線に乗り換えて山梨県の甲府の次の駅「日下部」で降りた。そこから1時間以上歩いて後屋敷村に着いた。
母や姉と弟たちは1週間くらい滞在して大阪へもどった。わたしはひとりで祖母と叔母さん夫婦と息子2人が住む家の居候になった。叔母さんは母の一番下の妹で婿養子をとって家を継いだ。
思い出すだに涙がにじむ疎開生活。大阪新町で暮らしていた子が甲州弁の中で生きていかねばならない。東京から来た子はまだよかったが大阪っ子はいじめられた。
聞くも涙の話はまたにして、桑の実の話。
叔母の家では畑の他に養蚕をしていた。母屋の上に2階と3階があり、低い天井の下にカイコがムシロの上でざわざわと音を立てて桑の葉を食べていた。
叔父叔母は早朝に桑畑に出て葉を収穫する。背中にカゴを背負って採った葉を入れる。ある日、わたしは桑畑で桑の木に実がなっているのを見つけた。口に入れると甘くてうまい。これは商品ではない、食べても大丈夫だととっさに思って食べ続けた。おいしいから食べたのだけれど、桑の実のせいでビタミンCが摂取できたのだと思う。実のなる木を見つけて覚えておき摂取に励んだ。けっこう寒くなるまで実っていたっけ。現地の子はだれも食べてなかった。
それから半世紀くらい経ってから、長野県の物産展で桑の実ジャムを見つけて買ったことがあった。調味料のせいで甘すぎ。その後また忘れていた。
八ヶ岳に登った時など山に入るまでの道で畑を目で追ったけど、桑畑はあったけど実のなっている木は見当たらなかった。