川端康成におぼれる・・・『千羽鶴』

先日の本棚片付けで出てきた文庫本の中に川端康成が数冊あった。「雪国」や「川のある下町の話」は覚えているけど、「美しさと哀しみと」はどんなんだったかしらと古ぼけた文庫本を開いたら、すぐに耽美の世界に入り込んでしまった。P・D・ジェイムズというがっちりしたイギリスミステリの世界でかしこまっていたわが魂は、あっという間に川端康成の美の世界に絡めとられていた。どっちも上等な文学だから読むのに矛盾がないのだ(笑)。

こうなったらちょっとの間は川端康成におぼれようと新しい文庫本を買うためにジュンク堂に行った。買ったのは「千羽鶴」「みずうみ」「女であること」の新潮文庫3冊。これを読み終ったら「山の音」も買おう。この他にも好きな本があったのを徐々に思い出そう。
そんなことを思って買った土曜日に「千羽鶴」を読み出した。翌日は雷鳴で目を覚ました夜中に続きを読んでしまった。だけど「千羽鶴」は飛び去って行かず、鶴の脚に絡めとられて昨日と今日と2度目を読んでいる。
昔だって何度も読んだ本だけど、いま人生の酸いも甘いも噛み分けてるつもりなのに(笑)、菊治の惑いに胸が痛み、太田夫人と文子の甘美と苦悩に想いがいく。

新調文庫には「千羽鶴」の後日談「波千鳥」が入っている。
菊治が千羽鶴のふろしきを持った見合い相手の稲村ゆき子に惹かれたのが前作の冒頭だった。
太田夫人と文子との葛藤で悩む菊治にゆき子が惹かれて結婚するのが「浜千鳥」の冒頭である。菊治の惑いや傷はゆき子の素直さに癒されていくようだが・・・

映画「千羽鶴」(1953)を見た記憶がないのに、栗本ちか子役の杉村春子の顔と声が思い出されたのは驚いた。検索したらやっぱり杉村春子だった。菊治は森雅之、太田夫人が小暮実千代なんだけど覚えてない。