サラ・ウォーターズ『黄昏の彼女たち 上下』(1)

サラ・ウォーターズの作品は『荊の城』と『夜愁』の2作を図書館で借りて読んだだけだ。今回はどういう心境の変化か出ると聞いたときから買うつもりになっていた。パトリシア・ハイスミスの『キャロル』で百合心が刺激されたせいかな。タイトルがいいしね。
読み終わったらすっごくよかったので、こうなったら訳されている『半身』『エアーズ家の没落』も読まねば。もちろん一度読んだ本も買って再読せねば。

ロンドンから南へ5-6キロ離れたカンバーウェルといううらぶれた村のチャンピオンヒルという丘に建つ屋敷にフランシスは母親と住んでいる。並んで建つそれぞれの屋敷の前には広い庭が横たわり、その庭を木々がとりまいている。
第一次大戦で兄と弟が戦死し、その後父親が亡くなったのだが、母と娘が思っていたような財産は残っていなかった。広い屋敷で使用人も雇えずに家事雑用は全部フランシスの肩にかかっている。
フランシスは以前にクリスティーナという女性の恋人と付き合っていたが家に戻った。クリスティーナは別の女性とロンドンで自活して暮していて、フランシスはときどき母に内緒で彼女らの部屋を訪ねる。

今回どうしようもなく現金が足りなくなり2階を貸して家賃を得ることにした。新しい住人はレナードとリリアンのバーバー夫妻で、労働者階級出身らしいが言葉の訛りはない。レナードはホワイトカラーでリリアンは専業主婦である。
フランシスとリリアンはだんだん仲良くなっていく。リリアンが『アンナ・カレーニナ』を読んでいるところから会話がはずむ。一緒に公園を散歩してランチを食べる。
フランシスが過去のクリスティーナとの話をしたあと、リリアンは腕を突き出してフランシスの乳房の間から突き出しているなにかを握るように指をまるめゆっくりと手を引いた。その場所は心臓の真上で、そこから突き出した見えない杭をリリアンは引き抜いたのだ。

長い長い作品で上巻はフランシスとリリアンが惹かれあっていくところが素敵な愛の物語である。
(中村有希訳 創元推理文庫 上下とも1240円+税)