エドワード・D・ホックの3つのシリーズのうち、犯人を捜す物語のサム・ホーソーンとサイモン・アークは「事件簿」(『サム・ホーソーンの事件簿』と『サイモン・アークの事件簿』)で、ニックは泥棒だから「全仕事」なんだなと納得して本棚を眺めていた。そしたら、1冊『怪盗ニックの事件簿』(2003 ハヤカワ文庫)があった。
その後、怪盗ニックのシリーズ全部が訳されることになって、「全仕事」となり今年3月に『怪盗ニック全仕事 1』が出て、今回『2』が出たということである。
ニック・ヴェルヴェットはガールフレンドのグロリアとニューヨークで暮らしている。仕事は一件につき2万ドルで値打ちのないものを盗む泥棒である。世間で値打ちがあると決まっているもの(お金とか宝石とか)には頼まれても手を出さないのを原則としており、そういう仕事を依頼されるとはっきり断る。
たいていは裏社会での噂を聞いた人からの連絡で仕事がくる。突然の電話で会いに行き話を決める。お金はほとんどきちんと支払われるので、年に数回仕事があれば二人で豊かに食っていける。
今回も、マフィアの虎猫、サーカスのポスター、将軍のゴミ、石のワシ像、ヴェニスの窓、シャーロック・ホームズのスリッパなどなど、意表をついたものを盗むよう依頼される。
短編15話のうち、わたしは「なにも盗むな」がおもしろかった。言われた木曜日にじっとしていると2万ドルが支払われる。
秋の一日を家で静かに読書して過ごした。
世間離れした怪盗ニックの物語は楽しい。ニックとグロリアの会話に癒される。
(木村二郎訳 創元推理文庫 1300円+税)