『黄昏の彼女たち 上下』の感想を書いたとき、未読の本として本書をあげたらSさんが持っているよと貸してくださった。一気読みしてしまったが、感想をまだ書いてなかった。お話はおもしろくてどんどん読めたが内容は悲しくてつらい物語である。
かつては隆盛を極めた領主館だったが第二次大戦が終わってからは子孫がひっそりと引きこもって寂しく暮している。土地や建物を切り売りしてなんとか暮しているのだが、だんだん生活が苦しくなっている。
村の医師ファラデーの母は第一次大戦前にこの屋敷の女中だった。父は食料品店の使い走りをしていて二人は知り合い結婚した。賢いファラデーを大学に行かすため両親は無理して働き早く世を去った。ファラデーは出身階級である小作人たちの間では嫉妬からくる無視に出会い、ほとんどが豊かな階級出身の医師たちの間では居心地が悪い。でも医師のとしての腕は確かなので認められている。
ファラデーが子どものとき母が内緒でお城に入れてくれた。そのときお城に魅せられてその気持ちはいまも続いている。
不運な一家のために医師として城に出入りするうちに令嬢キャロラインと心が通い合う。しかし、お城と令嬢のふたつを手にする幸福はファラデーには結局訪れなかった。物語が終局に向かう迫力がすごい。
時代が進むにつれ村の人口は増え医院の仕事も増える。仲間の医師たちともうまくつきあっているのでよかった。
すごく長くて怖い物語をドキドキして読んだ。最後までいってまた読み返した。
(中村有希訳 創元推理文庫 上960円+税、下1000円+税)