アン・ペリーのウィリアム・モンク警部シリーズの翻訳本は3作(「見知らぬ顔」「災いの黒衣」「護りと裏切り 上下」)しか出ていない。アン・ペリーが好きと言いながら、全部読んでいなかったのに気がつき中古本を購入して、翻訳されているのは全部読んで一安心した。
本書はシリーズの第1作である。
モンク警部が目が覚めたとき、彼は病院のベッドで横たわっており、すべての記憶を失っていた。自分の顔も名前もわからない。病院の看護人は一昨日おまわりが来てあんたのことをモンクといってたぜ。なにかしでかしたのかと聞いた。
そのあと上司のランコーンがやってきて三週間も経ったと告げ、仕事ができそうになったら署にもどるようにいう。仕事中に乗っていた馬車が事故を起こしたそうだ。
晴れた午後モンクは退院する。病院から返してもらった衣類は上等で持ち物の封筒には住所が書いてあった。下宿に入ると女主人が出てきて、帰ってきたことを喜んでくれ、温かい食べ物を出してくれた。見覚えが全然ない部屋の中を探して自分がなにものか考える。机の引き出しに妹からの手紙があったが、彼の手紙への返信でない。きっと高慢な自分は妹を無視していたのに違いない。住所を地図帳で調べて翌日モンクは妹の家に旅立った。妹夫妻のところで温かく迎えられて体力を回復する。
ロンドンに戻って警察に復職するとランコーンに未解決の難事件を担当するようにいわれ、部下のエヴァン刑事とともにグレイ少佐殺人事件を追うことになる。少佐は自室でひどい暴行を受けて死んでいた。
グレイ少佐は悪くいう者がいない明るい人柄だった。モンクは彼の生家を訪ねて母親や兄夫妻から話を聞く。「護りと裏切り」で活躍するヘスター・ラターリィが関係者として登場し、モンクの捜査を助ける。
ヘスターは上流階級出身だが、父がグレイ少佐と関わる投資で財産を無くしたので、自分で働かねばならない。その事情も聞きモンクの捜査は進んで行く。
(吉澤康子訳 創元推理文庫 806円+税)