コリン・デクスター『キドリントンから消えた娘』

「キドリントンから消えた娘」(1976)は「ウッドストック行最終バス」(1976)に次ぐモース主任警部シリーズの2作目で、憂愁が漂うモース警部に思い入れてしまう。

キドリントンはオクスフォードに近いモース警部が住んでいる町である。
3年半前のこと、オクスフォード行きのバス停留所で出会ったのは就職先が決まった青年と後から来た少女。赤いバスの二階にいっしょに乗ってオクスフォードに到着すると、青年は乗る列車が決まっているのに少女と遊ぶことに決めた。青年は後々一番ホームに行かなかったことを何度も後悔する。

2年前にエインリー主任警部は、キドリントンから家出して行方不明になっている少女バレリーを死亡したものと考えていた。3週間前にエインリーが交通事故で亡くなり、いま上司はバレリーからの両親宛の元気でいるという自筆の手紙を出して、モース主任警部にこの事件の捜査を命じる。殺人事件でなく失踪人探しかとうんざりするモース。

モースとルイス巡査部長は両親の家、学校の教師、近所の人たちを訪ねて当時の様子を聞く。モースはバレリーは死んだものとしか考えられず、手紙の筆跡についてしつこく仮説をたてる。しかし、エインリーがなぜ死ぬ前にロンドンへ行ったのかも考える。ルイスはロンドンへ行くべきだというが、まだモースは死亡説にこだわる。そこへまたバレリーから手紙がとどいた。「あなたがたは、私を捜していられるそうですが、私はそれを望みません。家へ帰りたくないんです。」

モースは一人暮らしである。本棚には「スインバーン全集」(わたしはスインバーンの本を1冊しか読んでいないが好きなのでモースに好意を持った-笑)と「ビクトリア朝好色文学選集」(モースはもっと人目につかないところに置いておこうと思った)があり、ロンドン市街地図はその裏にあった。
モースの過去には女が多過ぎるほどいた。そのうちの一人や二人は夢の中に現れる。いまは40歳もなかばなのに結婚もせず孤独である。

最後の一行
【家出娘たちの中のあるものは、けっして帰ってこなかった……永久に。】
(大場忠男訳 ハヤカワポケットミステリ)