館山 緑『しあわせな恋のはなし』

青年と少女が抱き合っている甘い甘い表紙。うすむらさきとピンクとうすみどりを濃いヴァイオレットが引き立てている。
作者の館山さんとはかなり前にミクシィで知り合った。作家としてのお名前を知ったのはごく最近のことである。小説を書いているのはうすうすわかっていたが、どのような作品を書いているのかはあまり気にしていなかった。館山緑さんと知ってからツイッターでも付き合いがはじまり、日記以上にリアルに執筆時の苦しみを知った。わたしのRTや返信は常識の範囲で、きっともどかしく思われたことだろう。そのときに書いていた作品「しあわせな恋のはなし」が出版されるまでをリアルタイムで知って、ぜひ読みたいと思った。

サウンドデモの帰りに本を買ってから足を休めようと千日前のジュンク堂へ行ったが、ティアラ文庫の売り場がわからずうろうろ。店員さんに訊ねて売り場まで連れて行ってもらいようやく手に入れた。それからは3階のティーコーナーで読み出したらやめられないってやつ。甘い表紙を向かい側にいる客に見られたら恥ずかしいと思いながら読んでいた(笑)。

わたしは昔もいまも少女小説が大好きで、思い出の本、何度も読んだ本、いまだに読む本といろいろあるのだが、どれもセックスシーンがない。なんかもう清教徒的に育ったんだといまさら思う。性教育というものを受けたことがないから、やってからこういうもんかと(笑)。
「しあわせな恋のはなし」という静かな作品は、昔からある少女小説にセックスを取り入れただけではない。時代は表紙や挿絵にあるドレスからして18世紀ごろかしら。「高慢と偏見」よりも昔だよね。むかしむかしと語られる童話の世界と思ったらいいのか。

主人公セラフィーナは〈野の花〉を愛する少女である。そして相手は〈野の花〉を愛する少女と一度だけ散歩したことを忘れられない青年ユーシスである。清々しい恋である。そして青年は城主を継ぐ身で、あまたある縁談を退け初恋を貫く。まだ心身ともに少女であるセラフィーナが愛されて目覚めてしっかりした女性に育っていく。
これだけの単純な物語を一冊の本に書く力につくづく感心した。
(坂本あきら絵 ティアラ文庫 533円+税)