小さいときは絵本や兒童もの、その後は少女小説、少年ものも兄たちのを読んだ。少女小説は買い直したり買い足したりしていまも読んでいる。情緒の安定によく効く。
そのあとに読んだのが大人の探偵小説だった。
F・W・クロフツ『樽』、A・A・ミルン『赤色館の秘密』(いまは『赤い家の秘密』)、E・C・ベントリー『トレント最後の事件』の3冊がわたしの寝ている部屋の本棚に並べてあった。それはもういろいろな本があって、いまも背表紙が思い浮かぶのだが、内容が記憶に残っているのがこの3冊なのだ。3冊とも小学5年くらいで読んだかなあ。
『樽』の表紙は樽の割れ目から人間の腕がぎゅっと伸びていて、金貨が手のひらからこぼれ落ちている。それはそれは怖かった。とにかく父親がなにかといえば『樽』というので、長い間これが探偵小説ナンバーワンかと思い込んでいた。大人になってから読んで、そこそこええけどなあって思った。
『赤色館の秘密』は大好きになって何度も読んでいる。それでも大人になると途切れて、20年くらい前に文庫本を買った。ギリンガム君とかだいたい覚えていた。図書室で本棚をとんとんと叩いて地下道への入り口を知るとか、これいまの記憶だけどあっているかどうか。兄が病気で入院したとき見舞いに持って行ったら懐かしがっていたっけ。また読みたくなった。
そして、『トレント最後の事件』だけど、前の2冊は何度か読んでいるけど、これだけは小学生のとき以来である。なんで読む気にならんかったのかな。先日、突然思い出して、半世紀以上前に読んだんだぜとびっくりした。トレントが初めて出てくる本なのに最後の事件とはなんや?と当時思って父や兄にうるさく聞いたのを思い出した。普通の探偵小説とは違って犯人を探して終わりではないところがいいんだと父がいってたような気がする。どうも納得いかなかったが。恋愛小説でもあるのになぜいままで読んでなかったのかな。これからは愛読書になったりして(恋愛部分が)。
(『トレント最後の事件』E・C・ベントリー 大久保康雄訳 創元推理文庫 1000円+税)