夏目漱石『草枕』を音読してみた

椅子にきちんと座り声に出して本を読むのが物忘れ防止によいと『クロワッサン』(5/25号)に書いてあった。「しっかり声を出すことで海馬を刺激し脳機能を高める」そうで、なるほどと思った。そして甲州弁で読んでみようと深沢七郎『甲州子守唄』でやってみた。甲州弁で書いてある会話がわたしが読むとみごとに大阪弁になり挫折。

それなら夏目漱石だ。漱石でいちばん好きな何十回と読んでいる『草枕』だが、音読はしたことない。
今日の昼下がり、相方はアメリカ村ビッグステップで開催されているステップ・ハーベストに行っている。静かな午後に漱石の朗読か〜ええやんかと、iPad miniを出した。漱石作品がいろいろ入れてある。
『草枕』の好きなところを開いて読んでみた。山の池の周りに咲いている椿の花がぽとんと落ちるさまが、静かで密かで不気味という描写が声に出すと目で読むよりずっと迫ってくるものがある。

そのあとで一人の男が視野に入り、反対側からやってきたのがヒロインの那美さんである。ふたりの所作を見守る画家。男になにか渡した那美さんは画家に気づき道を上ってきた。そしてさっきの男性にお金を渡したという。

ここからは引用
野武士の顔はすぐ消えた。那美さんは呆然として、行く汽車を見送る。その呆然のうちには不思議にも今までかつて見た事のない「憐れ」が一面に浮いている。
「それだ!それだ!それが出れば画になりますよ」と余は那美さんの肩を叩きながら小声に云った。余が胸中の画面はこの咄嗟の際に成就したのである。