上原善広『被差別の食卓』を読んで思い出したこと

1週間ほど前に夫が図書館で借りてきた本(上原善広『被差別の食卓』)を「先に読んでええで」と渡してくれた。若い友人に教えてもらったそうで「興味あるやろ、ソウルフード食べたことあるしな」「ええっ、覚えていてくれたん?あれは忘れられない味や、先に読ませて」と読み出した。

本の紹介を書く前に、たった一回だけど、わたしが日本のソウルフードを食べた話をしたい。

わたしは阪神大震災のあと、なにかできることでボランティアに参加したいと思っていた。最初は当時まだあんまり普及してなかったパソコンを使う仕事を手伝ったりしていたが、現地へ行きたくてネットで知った「週末ボランティア」に連絡して参加した。神戸三ノ宮から地下鉄で終点の西神駅へ行って駅構内で集合する。それから歩いたりバスに乗ったりしていろんな場所にある仮設住宅に行き居住者から話を聞く。3人くらいのひと組で、もどると報告書を書いて話し合う。

それに参加するほかに、報告・感想を「週末ボランティア掲示板」に書いていたら、パソコンがない人が多いからプリントして配りたいと相談され、3年くらいのあいだ編集してプリントアウトして事務局にファックスしていた。それをプリントして綴じ次の参加者に配る。猫のイラストなんかいれて楽しいと好評だった。

そんなある日、正月を過ぎてまもない冬の日に震災ボランティアのネット関連者たちのオフラインミーティングが三ノ宮で開かれた。わたしはボランティアのメンバーの1人やからええやろと勝手に参加した。中心の人たちの顔を見たい。
そのとき来ていた1人が部落解放同盟のKさんだった。わたしはKさんのブログを愛読していたので、顔を見られ、話ができるのでうれしかった。全部で10人くらいで女子はわたしひとりだけ。食べるものをそれぞれ持ってくるように言われていて、わたしは巻き寿司とおいなりさんを持っていった。
隣にすわったKさんが出したのが「魚の煮こごり」、いまこの本でわかったのだが兵庫のソールフードだったんだ!

兵庫県の海で獲れた魚だが、昔から普通の漁師さんが見向きもしない魚だという。しっかり煮付けてあって、汁は煮こごりにしてあった。
わたしは自分の母親の煮魚が好きだったのですぐに手を出し魚の身と煮こごりを食べて「おいしいです。これ好き〜」といった。
だけど、男子連中は見るだけで箸をつけたのは2人だった。みんな酒飲みで、瓶が空くと一升瓶を買いに走っているくらいなのに飲むだけで食べない。巻き寿司は好評だったけど、なんで魚を食べられへんのやろと不思議だった。みんなファーストフードに取り込まれているのかな。
わたしはずいぶん食べたけど、魚はけっこう残ってしまった。残りを黙々としまい込むKさんは寂しそうだった。
それ以来Kさんには会っていない。

その後だいぶ経ってから近所に「かすうどん」の店ができた。一度行って食べたらおいしかったが日常的にうどん屋に行くということがないからそのままになっていた。今日この本を読んで「かすうどん」のことをいろいろ知ったのでこれは行かねばと思っているところだ。