マドンナ 作 ガナディ・スピリン 絵『ヤコブと七人の悪党』

図書館で最初に借りたのは英語版だった。まず絵が素晴らしいのに引き込まれて、眺めているうちにこの絵の意味はなんやろと思った。子ども向けとはいえ文章が多くて、こりゃ読むのは無理だなと思っていたところ、図書館に日本語版があったので読むことができた。

カバーの裏側にマドンナの言葉「この本は、18世紀のウクライナに実在した偉大な師、バール・シェム・トヴの話をもとに書かれました。(中略)どうか、影の後ろには光があるということをけっして忘れないでください。」がある。

中世の感じの建物と道を行く馬車の美しい景色を見ながら靴職人のヤコブが働いている。彼には妻と息子ミハイルがいるが、息子は病気で医者から見放されている。ヤコブは村はずれに住む賢者に最後の手段として息子の命を助けてくれるように頼みにいく。
賢者の祈りだけでは助けることができず、賢者は町の悪人どもを連れて来て祈るように導き、ミハイルの命を救う。

絵だけを見ていたときは悪人どもがわからなかったし、そのうちの一人ボリスが裸足で、最後に靴を手に持っているのがわからなかった。賢人は自分の息子バベルのためにヤコブに靴をつくってもらう。脱いだバベルの靴をボリスが盗むのだが、反省して返しにもどってくる。その靴は君にあげるとバベルは言い、生まれてはじめて「ありがとう」とボリスは言った。

このストーリーさえわかっていれば英語版のほうがずっといい。タイトルの絵と文字の組み合わせが良すぎる。物語は教訓的だが絵が素晴らしい。
(角田光代訳 集英社 1900円+税)

ジュディ・バレット/文 ロン・バレット/画『マクドナルドさんのやさいアパート』

おもろい絵本だ。カバー折り返しに〈ナンセンスの名作「どうぶつに ふくを きせてはいけません」「くもり ときどき ミートボール」のコンビがおくる、びっくりぎょうてん絵本〉とある。

マクドナルドさんは奥さんと古いアパートに住んで管理人をしている。持ち主はレンタルさん。マクドナルドさんの仕事は掃除や暖房を入れること。彼が住んでいる部屋は1階の薄暗い隅っこの部屋。窓はすっかり生け垣に覆われて部屋に光が入らず、奥さんの大切なトマトの鉢植えがしおれてしまった。思い切って生け垣を取り払うとトマトが元気になったので、生け垣のあとに地植えする。ある日、3階の人が引っ越していった。がらんとした部屋でマクドナルドさんは野菜を植える。その下の階の部屋の天井からサツマイモがにょきにょきぶら下がる。キュウリやジャガイモやニンジンや・・・あきれて次々に住人が引っ越していき、アパートはだんだん農場になっていく。牛や鶏も飼って4階建てアパートは4階建て農場に。レンタルさんはアパートの前に小屋を建てて野菜売り場とする。
「やさいは ますます げんきに そだち、マクドナルドさんたちは みんな しあわせにくらしましたとさ」
(ふしみ みさを訳 さくほく社 1300円+税)

ジョン・バーニンガム『ひみつだから!』

絵本づいている。今度は今年2月発行(2009年の作品)のジョン・バーニンガムの猫の絵本で、猫の集会をテーマにしている。

夜中に猫の集会あるいは会議があるのはよく知られている。わたしは近所の大きな公園で猫が集会を開いているところに2回出会った。毎朝ガーデンキャットたちにご飯を運んでいたときのことで、公園を夜中に通ったときに出くわした。いつも早朝にわたしの顔を見るとご飯を食べにとんでくる猫たちが、真面目な顔をして体を寄せ合っていた。黙っているのに会話が飛び交っている感じだった。時間もお金もかかった上に足を捻挫するというおまけまでついたが、素晴らしい体験をした3年間だった。

本書は猫のマルコムが出かけるときに、飼い主のマリー・エレンが同行する話だ。小さくなった少女はドアの猫の出入り口から飛び出し、それを見ていた近所のノーマンくんも連れていく。3人は犬に追いかけられたり、いろいろ冒険して最後は猫の女王さまに面会する。
帰るとソファで寝てしまった少女は「まるで、ネコといっしょに ひとばんじゅう そとにいたみたいだわね」と朝になってお母さんに言われる。「マルコムが、よるになると どこへいくのか、よくわかったわ。でも、おしえないよ。ひみつだから!」。
(福本友美子やく 岩崎書店 1600円+税)

ウォルター・デ・ラ・メア 再話 エロール・ル・カイン 絵『かしこいモリー』

午後の中央図書館に行って絵本のコーナーをうろうろしていたらエロール・ル・カインの絵が目に飛び込んできた。去年の10月に出た本。ここ数年新刊絵本から遠ざかっていたので初見である。イギリスの昔話を幻想小説で知られたウォルター・デ・ラ・メアが再話した物語に、エロール・ル・カインが絵を描いている。ル・カインの絵本は洋書でもけっこう持っていたが(いまは人にあげたりして数冊しかない)本書は知らなかった。

貧乏人の子だくさんの家の3人姉妹が父親に言いつけられて森へたきぎを集めに行く。だんだん森の奥へ入り込んで帰り道がわからなくなる。日が沈むころに一軒の家を見つけて戸を叩くと女のひとが出てくる。ここには泊められないというのを頼み込んで泊めてもらうが、ここは人食い大男の家だった。
モリーの機転で食べられずにすみ、彼女らはどんどん逃げる。すると王様の立派なお城があった。そこで人食い大男の話をすると、王様は賢いモリーに頼みがあると言う。結局3回の頼みを聞き、人食い大男から宝物をとってきて3姉妹はそれぞれ王子さまと結婚するという話。

わたし幻想的なル・カインの絵が大好きなのですごく楽しめた。ちょっとご無沙汰していた「キューピッドとプシケー」「おどる12人のおひめさま」を出してきてさっきからお茶を飲みながら楽しんでいる。これからまた絵本にはまるかも。
(中山千尋訳 ほるぷ出版 1300円+税)

新町遊郭を描いたマンガ、もりもと崇「難波鉦異本」(なにわどらいほん)

“難波鉦異本 上 (BEAM COMIX)東京から遊びにきたOちゃんが買ったばかりの本、もりもと崇「難波鉦異本」(なにわどらいほん)上・中を読み終わって持ってきてくれた。難波のそれも新町が舞台になっているからね。まだ下巻は出ていないそうだ。
マンガを最後に読んだのはいつかも忘れてるくらい久しぶりだ。読み出したら昔みたいに夢中になってしまった。

新町遊郭の遊女たちの格付けは、〈太夫〉が〈松〉で相撲でいえば三役、〈天神〉が〈梅〉で幕内クラス、〈鹿子囲〉が〈桐〉で十両クラス、以下になるとショートタイムでも客をとらせられる。
夕霧太夫亡きあとの新町遊郭。主人公の和泉は〈天神〉で、新町一の三絃の名手であり、実力からいえば〈太夫〉のところを、客あしらいが下品なので、〈天神〉で止まっている。禿(かむろ)のささらを従えての、すさまじくもしたたかな日常が描かれている。
ストーリーがおもしろくて、絵が良くて、構成がしっかりしていて、エロくて、いやなところが少しもない。

本書にある新町郭東口大門があった新町橋と横堀川の跡あたりをよく歩いている。埋め立てられて長堀通りになってしまった西長堀川の橋の名残りや、大阪大空襲で消失したわが家があった場所は日常的に見ているので、古地図を見ているように懐かしい。

中巻にこんなところがあった。
大坂落城で真田隊全滅のあと、ひとりの武士が行くあてもなく死のうとしているとき、やはり身一つで逃れてきた姫君を犯すが、その後にその女性が姫と知る。
姫は言う。「見よ、この骸の山を・・・大坂は負けたのじゃ・・・・勝者ではない、敗者こそ無念の骸の上に何かを成して報いるべきぞ・・・」
姫君は遊女となり、武士は商人となる。その後の話も哀切である。
早く下巻が読みたい。
(エンターブレイン 上下とも620円+税)