フェルディナント・フォン・シーラッハ『コリーニ事件』(2)

博士号を持ち大学教授でもあるマッティンガーは妻を早く亡くし、愛人を家に入れている。2000件に及ぶ殺人事件の裁判で負け知らずであり、依頼主が銀行家や由緒ある旧家になって久しい。依頼の電話を受けてマイヤー機械工業の大きな面談室で法律顧問たちと話し合った。ヨハネとも会い最善を尽くすと約束する。
裁判所でライネンはマッティンガーを見かけて挨拶する。ライネンはこの仕事から降りるつもりだ「わたしはマイヤー家で育ったようなものなのですよ」。それへの返事は「弁護士の仕事は依頼人のために働きしっかり弁護することだ」。
一階の小さなパン屋の主人は、自分は離婚してパン屋の店を失った。いつかまともなパン屋にもどれるかもしれないといい、「あんたは弁護士なんでしょう。弁護士のするべきことをしなくちゃ」。

ライネンは父に誕生日の電話をする。父は猟銃の掃除をしていたと言った。そこでライネンはコリーニ事件の調書にあった「凶器:ワルサーP38」を思い出した。
彼はルートヴィヒスブルクの書庫へ出かけ5日間ホテルに逗留して、膨大な情報を探し出す。これでするべきことがわかった。
マッティンガーの65歳の誕生日に招かれて出かけると800人の招待客が詰めかけて華やかなものだった。マイヤー機械工業の法律顧問が声をかけ、コリーニの弁護をやめるならマイヤーの会社にいい位置を用意するという。彼はライネンの仕事や生活を調べあげていて断るはずはないと思っていたが、ライネンはきっぱりと断る。

陳述書を朗読するライネンに迷いはなかった。【・・・だが今日、自ら発言しながらはじめて、問題ははっきり別のことだと思い至った。問うべきなのは、虐げられた人のことなのだ。】
コリーニはマイヤーを過去に訴えたことがあったが、時効で訴訟手続きを中止された。保守派の弁護士から官僚になった男が時効期間を短くしていたのだ。
陳述の後でコリーニはライネンに言う。
【うまくいえないんだけどね、ライネンさん。おれたちが勝つことはない。それだけはいっておきたい。おれの国に、死者は復讐を望まない。望むのは生者だけ、という言葉がある。このところ毎日、収監房のなかでそのことを考えているんだ。】
(酒寄進一訳 東京創元社 1600円+税)