アン・ペリー『護りと裏切り 上下』(1)

前半はちょっと細かい描写を読むのが面倒だったが、下巻にいくと劇的な法廷シーンが長く続き読むのをやめられなくなる。緊迫したやりとりにこころ奪われて、繰り返し下巻を5回読んだ。そして上巻をもう一度読むと最初に読んだときより、登場人物への理解が深まって納得しながら読めた。

アン・ペリーは多作な作家なのに翻訳が少ない。まだ1冊読んでないのがあった。このモンク&ヘスターのシリーズですでに読んでいるのは「災いの黒衣」。その前作「見知らぬ顔」をいまアマゾンの中古本で注文したところ。

時代は1850年代、クリミヤ戦争が終わってナイチンゲールとともに看護婦として戦地にいたヘスター・ラターリィはロンドンにもどった。いまは怪我をしたティップレディ少佐に付き添って住み込み看護をしている。少佐は退屈していて外の空気を知りたがっており、ヘスターの外出を快く許可する。
友人のイーディスは裕福な未亡人で実家で暮らしているが、なにかして働きたいとヘスターを頼りにしている。イーディスからの誘いで水仙が咲く公園で会ったのだが、イーディスは家で大変なことが起こったという。兄のサディアス・カーライアン将軍が階段の手すりごしに落ち、甲冑の鉾槍で胸を貫かれ即死した。あわてて帰る友は翌週の土曜日にお茶にくるように誘う。
将軍の死は他殺とされ、妻のアレクサンドラが自分が殺したと自白して逮捕された。もしかして父とうまくいかない娘をかばっているのかとイーディスは思い、ヘスターに相談する。ヘスターは知り合いにしっかりした弁護士がいるけど、あなたの義兄さんが弁護士のはずというと、アースキンは事務弁護士なので法廷に立てないからそのひとに頼みたいという。ヘスターはオリヴァ・ラスボーン弁護士に頼みに行く。ラスボーンは調査員としてモンクを雇う。

元警官のモンクは聞き込みをはじめる。彼は警察官だったときに怪我をして記憶を失った。同僚に気付かれないように働いてきたが、いまも思い出せないことがたくさんある。きちんとした身だしなみで言葉遣いも標準語の彼だが、見るひとが見れば〈子どものときに家庭教師がつかなかった〉のは一目瞭然なのである。

ラスボーンは拘置所のアレクサンドラに会いにいくが彼女の答えは同じだった。だれかを助けるために自白したのではない、彼女が夫の浮気を怒って殺したという。
協力しない罪人のためになぜ彼女が夫を殺したのかを探らねばならない。ヘスターとモンクは後援者のキャランドラと討論したり、屋敷の使用人にも聞き込みをしていく。
(吉澤康子訳 創元推理文庫 上下とも960円+税)