ディケンズ『大いなる遺産 上下』

めちゃくちゃおもしろい小説だった。19世紀のイギリスのことがよくわかる。小説で脇を固めておいてエンゲルスを読めば資本主義が生まれて発展する過程が目の前に映画のように現れるだろう。19世紀の裁判や監獄の描写も詳しい。村の鍛冶屋の義兄は清廉な男で主人公のピップの過ちを許し助ける。その力を借りてピップは自分の力で生きて行く人間になれた。

両親と死別して村の鍛冶屋のジョーと結婚している姉の世話になっているピップ。やかましい姉と違ってジョーは静かでピップに優しい。こうるさい妻の小言を避けてピップに目配せし〈相棒〉と呼んで可愛がる。
ピップは目はしの効いた子どもである。ある日誰もいない湿地で逃亡してきた犯罪者にヤスリと食べ物を持ってくるように言われてジョーのヤスリと姉から食べ物を失敬して渡す。
お屋敷のミス・ハヴィシャムは古いウェディングドレスを着たまま暮らしている変わった中年女性だが、ピップを屋敷に呼んで散歩やトランプの相手をさせる。その養女エステラは美貌の少女でピップは一目惚れ。彼女と同等に付き合うためにジェントルマンになりたいと切望する。
ピップはジョーの鍛冶屋で年季奉公することになった。静かな生活にすっかり満足しているジョーが歯がゆい。渡り職人のオーリックは悪い奴でピップの姉であるジョーのおかみさんを襲って致命的な怪我をさす。
そんなことがあって日々が過ぎたある日、ロンドンから弁護士が来てピップに匿名の人から遺産があるという。
衣装を誂えてロンドンに行きポケット先生にジェントルマンとしての行儀作法を習う。ポケット先生の息子ハーバートと知り合い終生の親友となる。彼といっしょに無駄遣いも覚えたピップだが読書は続けている。

久しぶりに読んだディケンズはおもしろくてためになる。
「荒涼館」が大好きなのだが最近読んでない。いまの積ん読を早く読み終えてまた読もう。
(石塚裕子訳 岩波文庫 上1140円+税 下1080円+税)