「黒い塔」(1975)は「女には向かない職業」(1972 コーデリア・グレイシリーズの1作目)の次の作品。
アダム・ダルグリッシュ警視は重病と診断されて入院していたが、病理テストの結果がよくて退院できることになった。退院したらしばらく休むつもりだが、その間に老師からの依頼に応えようと思う。バドリイ神父は30年前にダルグリッシュの父親がいる教会へ副牧師としてやってきた人だ。手紙には、あなたのご職業がら力になっていただきたいことがあるとあった。古風な地図が添えてあり男根崇拝のような黒い塔のマークがある。ダルグリッシュは数日静養してから行くつもりだ。
もう一つはコーデリア・グレイに会うか手紙を書くかしてお礼を言わねばならない。彼女からの見舞いの花束がとても気に入ったから。コーデリア自身が選んだ小さな花が念入りに組み合わされたもの。彼女は食べていけるだけ稼いでいるのかふと考えた。その花束の花を彼ははっきりと覚えている。お礼は後ほどしよう。
ダルグリッシュは11日後にアパートから自分の車でロンドンの南西に向かって道中をゆっくりと楽しみながら進んだ。
バドリイ神父の住まいに到着したが人の気配がない。誰も彼のノックに応じない。部屋に入るとドアの後ろに僧服が吊るしてあった。大机の上に印刷物があるのに気がつく。牧師が11日前に死亡し、5日前に埋葬されたと記してある。
台所にはダルグリッシュのために買ってきた食料品が置いてあった。
部屋を見終わったころに女性がやってきたので話をすると、神父は〈トイントン・グレンジ〉に遺産を残したという。
そこは障害者施設でいまの経営者ウィルフレッドの祖父が遺したもの。ウィルフレッッド自身が多発性硬化症を発病し3カ月で車椅子の厄介になることになった。それがルールドに巡礼したら治った。彼は神にこの療養所と全財産を障碍者たちに捧げると誓った。ということで〈トイントン・グレンジ〉にはいま5人の患者がいる。元外交官のジュリアスは別にコテッジを持って贅沢に暮らしている。
ダルグリッシュは療養所内で患者の事故死や自殺が続けて起こっていることに疑問を持つ。
(小泉喜美子訳 ハヤカワ文庫 680円+税)