スティーブ・ハミルトン『解錠師』

表紙のタイトルのそばにアメリカ探偵作家クラブ賞受賞、英国推理作家協会賞受賞と入っている。米英で評価を受けた本だ。たしか日本でも「このミステリーがすごい!」と「週刊文春ミステリーベスト10」の両方で1位になった。わたしがあまり買わないタイプの本だが、今回は知り合いに勧められて買って読んだ。

マイクルは幼くして父親の暴力を見てしまった。恐怖のあとでようやく助けられたときは声が出なくなっていた。ニューヨークで酒屋を経営している伯父に引き取られて、耳は聞こえるが声が出ないまま成長した。

学校のロッカーを開けて便利がられ、グループで金持ちの邸宅に侵入する。やがてその特技が知られ犯罪に利用されるようになる。

最初は自分の勘と才能でやっていたが、プロの解錠師ゴーストの弟子となり鍛錬する。そして一流の金庫破り(ロック・アーティスト)と認められて師匠のあとを継ぐ。
【結論を言おう。そう、結論だよ。おまえさんは芸術家だ。だから、プリマドンナみたいなふるまいが許される。それこそが求められているんだ。そうしないと、相手は変に思う。そして、なにもかも振り出しにもどす。芸術家を呼んだはずが、とろいやつが来やがった。かまうものか、撤収しようぜ。】

犯罪にからんだ男の娘アメリアと宿命の恋をして、彼女だけに過去を絵にして打ち明ける。
しかし、一度はまった犯罪の世界から足を洗う前に警察に捕まる。長い刑務所生活を支えたのはアメリアとの絵手紙の交換だった。
牢を出てアメリアと会ったときに声は出るだろうという予感。
金庫破りの芸を緻密に描く犯罪小説であり、出会いと別れのあとに再会を予感する青春小説でもある。
(越前敏弥訳 ハヤカワ文庫 940円+税)