C・J・サンソム『チューダー王朝弁護士 シャードレイク』(2)

このころには印刷技術が一般化され神の言葉が万人に読めるようになっていた。だが教会の聖歌隊長は、写本がある種の芸術だった100年ほど前は写本に精を出す修道士でいっぱいだったと郷愁を語る。
修道院では施療係のガイ修道士が医療を行っていて唯一の女性アリスが助手をしている。彼女は親に死なれたあと一家の土地が牧羊のために囲い込まれたため、住むところを失い修道院で職を得た。ガイ修道士はムーア人で肌の色が黒いために差別されている。
シャードレイクが考えごとをしながら馬をさまよわせているといつのまにか川岸へ出た。数隻の船が停泊しておりガイのような肌をした男も交じって荷下ろしをしている。そこで見たのはマデイラ諸島から積んできた黒人たちである。ポルトガルの商人がアフリカから奴隷として仕入れてきたのだ。

複式簿記や印刷技術、土地の囲い込みや黒人奴隷の売買など、資本主義があちこちで動き出した時代。新しい支配者が現れる。
治安判事のコピンジャーはアリスの土地を奪って合法的にやったと平気でいう男である。最初はシャードレイクがクロムウェルのお気に入りということで歓待する。しかしシャードレイクの清廉な思考や行動が気に食わなくなる。それに加えて事件の解決が遅れたなどとクロムウェルに愛想をつかされたことを知ってよけいに冷たくなる。

人間が作り出した謎を解決したシャードレイクはガイ修道士と話し合う。障碍者とムーア人に知性と情がある。ふたりはそれぞれロンドンの片隅で生きていくことになる。
(越前敏弥訳 集英社文庫 1050円+税)