C・J・サンソム『チューダー王朝弁護士 シャードレイク』(1)

友人がおもしろかったから読むようにと送ってくれた。たしかに自分で買わないタイプの本なのでありがたく読ませてもらった。
最近はイギリスの古い時代を舞台にした作品をよく読んでいるが、今回は時代をずっとさかのぼって16世紀のイングランドの物語である。ローマ・カトリック教会から離脱して、みずから英国国教会の長となったヘンリー八世だが、そこまでやって結婚したアン・ブーリンを3年後に斬首刑に処してしまう。アンが生んだ子は待ち望んだ男子ではなく、のちにエリザベス一世となる女子だった。ようやくここで映画「エリザベス」を思い出して話がつながった。
教王と対立するようになったヘンリー八世は外国との戦争や国内の反乱があった場合に備えて資金の蓄積をしようと修道院の富に目を付ける。当時の修道院は社会のなかで学問や教育、慈善や宿泊施設など大きな力を持ち、王の資産よりも多くの富を蓄えていた。

そんな時代、ヘンリー八世の摂政クロムウェルに仕える弁護士シャードレイクは、鋭い頭脳と観察力で仕事をこなしていた。幼いときからの脊椎後弯症(作中では「亀背」「背曲り」といわれている)で、無理をすると背中に痛みが走る。若い助手マークのすべすべした背中を見て嫉妬がわくときもある。好きになった女性に打ち明けられないうちに他の男に取られたこともある。
新しく購入したロンドンの住まいは忠実な家政婦のジョーンが快適な生活を送れるように気をつけている。田舎の父の農場の管理人の息子が助手のマークである。いろいろあったが、いまは息子のように思っている。

クロムウェルに喚ばれた用件は直ちにスカーンシアの修道院へ行って、調査に出向いた修道僧シングルトンが殺されて頭部を切り落とされた事件を調査し、また男色の問題の現状を探ることだった。
翌朝シャードレイクはマークとともに南海岸方面へ向かって出発する。

殺されたシングルトンは修道院へきてからは、なにひとつ見残さないように帳簿や記録に目を通していた。複式簿記にも通じていて、(ここには〈イタリア式帳簿—なにもかもふたつに分けて記録する方法〉とあるが、こんな時代から複式簿記ってあったんだ。)焦って仕事をしていたという。
シャードレイクはきっぱりいう。「少なくとも、人間が作り出した謎には解決策があります」
(越前敏弥訳 集英社文庫 1050円+税)