マイケル・ウィンターボトム監督『イン・ディス・ワールド』

いま、T氏に貸していただいたマイケル・ウィンターボトム監督の14本目の映画を見終わった。これでわたしは、T氏がいうところの「全部見たら押しも押されぬ立派なウィンターボトム通」になった(笑)。
贅沢言うと「キラー・インサイド・ミー」を見たいんですけど。原作がジム・トンプスン「おれの中の殺し屋」なんで。

息抜きに冗談が入ったけど、「イン・ディス・ワールド」(2002)は難民問題を取り上げていてすごい映画だった。ウィンターボトム監督はぐいぐい押すだけの作家ではないから、しんどい問題を取り上げているけど静かに見続け、見終わったあとは深く静かな興奮が残った。

パキスタンの北西の町ペシャワールには100万人の難民がいる。そこに生まれた若者は違う世界に出て行きたい。密入国業者にお金を払えて運がよければ行ける文明世界に。
15歳の少年ジャマールは難民キャンプに生まれてレンガ工場で低賃金で働いている。従兄弟の青年エナヤットは親の家電店で働いている。エナヤットの父親は息子の将来を思ってロンドンへ行くようにと、英語のできるジャマールとともに送り出す。空路はお金がかかるので、危険だが陸路の旅を選ぶ。
難民キャンプからバスで出発、途中でトラックに何度か乗り換え、検問でエナヤットのウォークマンを差し出して通してもらったこともあった。なのに次のバスでは乗り込んで来た軍人にバスから降ろされパキスタンにもどされる。前に進むために何度も何度も車を乗り換えお金をむしりとられる。
果物がいっぱいのトラックの荷台に乗って山に囲まれたところに着くと、クルド人が優しくもてなしてくれた。子どもたちとサッカーして遊んで小休止の楽しい場面だった。
案内の少年に連れられて山を越えようとすると、銃撃戦があり少年は逃げて行く。ふたりは必死で山を越え雪のトルコに到着。トラックを乗り継ぎ、途中で知り合った子連れ夫婦といっしょにイスタンブールに着く。
イスタンブールで仕事を見つけて少し穏やかな生活を送っていたが、またもや難民として移送される。トラックの荷台の暑さと酸欠でエナヤットも子連れ夫婦も死亡。ジャマールと子どもだけが残る。
ロンドンに着くまでまだまだ苦労の連続。難民キャンプで知り合った友人とユーロトンネルをおどろきのただ乗りで越えて、いまジャマールはロンドンにいる。

年齢は上だが親掛かりのエヤナットに比べて孤児のジャマールは目端が利き、なにがなんでも生き抜く力を持っている。二人ともとても爽やかな青年だ。
主演の二人は本当の難民で本名と役名が同じだ。