エドワード・D・ホック『サイモン・アークの事件簿 IV 』

すでに出ている3冊は著者が選んだものだったが、今回は訳者が選んだ8作が同じように年代順に並んでいる。二千年の歳月を生きている謎の男サイモン・アークは今回も8件の難事件に立ち向かう。同行する〈わたし〉は若い新聞記者のときにサイモンと知り合った。その後ニューヨークの出版社〈ネプチューン・ブックス〉の編集者になり、部長、副社長、発行人と順調に出世し、退職したあとは編集コンサルタントになった。作品の年代によっていろんな立場にいるが、いつもなんとか日にちを繰り合わせて、サイモンが声をかけるとどこにでも同行する。

目次を見ていたら「切り裂きジャックの秘宝」「ロビン・フッドの幽霊」とイギリスだとわかるタイトルがあったので、その2作から読み出した。イギリスを舞台にしたのは他に「悪魔の蹄跡」と「死なないボクサー」がある。半分がイギリスが舞台だ。二千年生きているサイモンだからイギリスが合うように思う。
「悪魔の蹄跡(ひづめあと)」、この一作だけは書き手の〈わたし〉がいなくて、ロンドンから架空の地ノース・ブラッドシャーへ向かう二等車両で、サイモンとロンドン警視庁のアッシュリー警部が出会う。いっしょに現地に着いて調査に同行したサイモンは、雪の積もったイギリスの田舎の怪事件を現実的に解決する。

「切り裂きジャックの秘宝」では、いかにもな感じのロンドンの古書業者が出てきて期待させる。「切り裂きジャックが狂人でも性的異常者でもなく金銭的利益を目的として冷徹な計算をしていた殺人鬼だったという証拠を、わたしは持っているんだ!」という視点での物語の終わりは充分に満足できた。

「ロビン・フッドの幽霊」は、ロビンフッドの地ノッティンガムの迷路の話がおもしろい。
「黄泉の国の判事たち」では、〈わたし〉に電報が届く。「きみの妹と父が自動車事故で死亡、すぐ来い」。故郷へ妻とともにもどった〈わたし〉の過去が明かされる。

いずれも怪奇に満ちた事件を合理的に解決するサイモン・アークの事件簿。でもサイモン・アークの存在自体が神秘だからこれでいいのだ。いつものように木村仁良さんによる丁寧な解説がうれしい。
(木村二郎訳 創元推理文庫 980円+税)