長谷川健一『原発に「ふるさと」を奪われて 福島県飯館村・酪農家の叫び』

12月1日に行った長谷川健一さんの講演会の帰りに買った本で、内容はほとんど講演会の報告と同じだけど、報告は〈あらすじ〉に過ぎないから、きちんと買って読んでほしい。理不尽に「ふるさと」を奪われた農民の叫びが伝わってくる。

わたしには故郷と思えるものはなく「故郷は遠くにありて思うもの」(室生犀星)という気持ちだって深くはわかっていないと思う。大阪に長年住んでいるが、ここをふるさとと思えない都会の流浪者である。それでもいま大阪に放射能がばらまかれて、ここから逃げ出さないといけない状況になったらどうしたらいいのだろう。身軽な都会ものですらこうだから、何代もその地に住む家族持ちの人たちはどれだけ大変か想像もできない。それがいまの日本で実際に起こったことだ。

飯館村の人たちは地震のおどろきが落ち着いたころ、津波から逃れてきた人たちにミルクを沸かして振る舞った。まだそのときは被害者ではなかった。目に見えない放射能が風にのってやってきたのを知ったのはその後のことである。

そして放射能をどう受け止めるかで、長年のあいだ共に酪農をやってきた村長と意見を異にすることになる。故郷を失うと同時に人間関係も崩れた。
長谷川さん夫婦はたくさんの問題を抱えたまま、いま伊達市の仮設住宅で両親と暮らしている。
(宝島社 1400円+税)