ヘニング・マンケル『ファイアーウォール 上下』(2)

ヴァランダーはマスコミの攻撃を受けつつ、体調のすぐれないままに捜査を続ける。夜中に停電があり送電所に駆けつけると送電線にソニャの死体が引っかかっていた。そしてファルクの死体が安置所から盗まれた。死体が置かれていた台の上に継電器が置かれていたことで、少女たちの事件とファルクの事件が結びつく。ヴァランダーはファルクの元妻と仕事関係の女性から話を聞く。
なにか不吉なことが行われようとしている。

ファルクのパソコンには警察官が操作しても入れない壁があった。ヴァランダーはペンタゴンのコンピュータに侵入しようとして捕まったことのあるモディーンを訪ねる。極端なベジタリアンでコーヒーも飲まない小柄な少年ハッカーは壁を破ろうと必死にとりかかる。

なにか大掛かりなことをしそうな犯行予定日がわかりかけてきた。
残る時間を割り出して必死の捜査を続ける警察と、自信を持って絶対に行うと決めている犯人との戦いが繰り広げられる。全世界を相手にした犯罪をスウェーデンの小さい町の警官たちが阻止しようとする。

ヴァランダーの言葉が行き詰まったモディーンの壁を破るヒントになる。
【「自分自身が轢いたときに初めて人はちゃんと野うさぎを見る」(中略)「・・・われわれが探しているものは、どこか深いところに隠されているんじゃなくて、目の前にあるのかもしれない」】
いろんなことを考えていると犯人たちのことにも思いがおよぶ。
【われわれが生きている社会は、想像するよりもずっと簡単に壊れ得る、もろいものだということ。】

このシリーズは翻訳されはじめて10年を越えている。
ヴァランダー刑事は離婚を乗り越え、その後できた恋人と疎遠になり、父は亡くなり、娘ともなかなかうまくいかない。怒りっぽい正義漢で今回は取調中に少女を殴ってしまうし(向こうが悪いのだが)、要領が良く出世欲のある部下の行為を知り殴り倒す。女性読者の母性愛を引き出す人だ(笑)。
(柳沢由美子訳 創元推理文庫 上下とも1200円+税)