「プリピャチ」(1999)はいい映画だと聞いていたがチェルノブイリに関わりがあるという以外なにも知らなかった。大阪駅前第二ビルの研修室で開かれた上映会に相方と行って感動して帰ってきた。
プリピャチはチェルノブイリから4キロのところにある町である。チェルノブイリから30キロ圏内はいま「ゾーン」と呼ばれる立ち入り制限区域である。有刺鉄線で囲まれたゾーンは兵士が出入りをチェックし中からの物の持ち出しを禁じている。
撮影されたのは原発事故のあった1986年から12年経ったときで、ゲイハルター監督は「当時ヨーロッパではチェルノブイリ原発事故の事はメディアでの報道も無くなり忘れ去られようとしていたので、僕は忘れないために記録しておこうと思った」と語っている。
モノトーンの画面で音楽や解説なしの沈黙空間に登場したひとたちが静かに話す。プリピャチ市の環境研究所でいまも働いている女性ジナイーダさん、避難先からもどってきてここで暮らすルドチェンコ夫妻、原発の技術者でシフト勤務のリーダー、立ち入り禁止区域との境界地域にあるポレスコエに住み10年以上移住の順番待ちをしている女性、川に船を出し漁をしている男性もいる。魚に包丁をあてながら猫にも食べさせる女性もいる。
ジナイーダさんはいまはキエフに住んでいるが、昔は近くに家があり歩いて通っていたとその道を辿った。道はだれも通らないので雑草と雑木が繁っているが、かきわけて進んでいく。ただ足音だけが響く。公団住宅のような建物に入り自分の家だった部屋に入ると、なにものかに荒らされて家具は壊され、こどものノートが乱れていた。
ルドチェンコ夫妻、せっかちな妻とそんなに急くなよと後ろから呼ぶ夫を見ていると、うちと同じでここは笑えた。その夫婦がこもごも語るのは、ここで生きここで死にたいということ。
それぞれの人間の物語がせつない。
帰りはたまの外食にシャーロック・ホームズへ。常連さんたちのダーツを見ながらギネス! 話はいま見た映画のこと。あの老夫婦はうちらとそっくりやなぁ。大阪が被曝したら、うちらはあの夫婦のように避難せずに大阪で暮らそうや、なんて。近未来はどうなるのか、わたしらはどう生きていくかを考えさせる映画だった。