「麦秋」という言葉が好きだけど実った麦畑を見たのはほんの数度あるだけで、だからこそ「麦秋」という言葉に惹かれるのかもしれない。
「麦秋」(1951)は爽やかな風に揺れる麦畑のように後味の良い作品だった。
北鎌倉に老いた両親と長男の医師康一(笠智衆)と妻(三宅邦子)と男の子2人の一家、それに会社勤めをしている長女紀子(原節子)が穏やかに暮らしている。日常の些事を描きながら映画はゆっくりとすすんでいく。
大和から来た伯父が紀子が28歳で独身なのを心配し息子をせかす。
紀子の会社専務の紹介があって話は決まりそうだったが、年齢が行き過ぎと家族は気にする。
近所に住む医師の矢部は戦争で死んだ紀子の兄の友人で、妻が女の子を残して亡くなり、母親(杉村春子)と暮らしている。
ちょっとした用事で矢部の家を訪れた紀子は、母親から息子が秋田の病院へ転勤する話を聞き、その流れであなたのような人と結婚できたらという言葉に、あたしでよかったらと自然に言葉が出た。
そこからは家族からなにを言われてもにこにこと自分を通す紀子。親友(淡島千景)もびっくりするが納得。
最後に紀子と兄嫁が海岸を歩くシーンが美しくて、後味の良い映画だった。その後、大和に暮らす老親たちが実った麦畑を眺めながら話すシーンがよかった。