サラ・コードウェル『かくてアドニスは殺された』(2)

この作品はゲイミステリとして紹介されたものだった。ジュリアが一目惚れした美青年には男性の恋人がいた。その二人の恋については書き手がロンドンにいる安楽椅子探偵だから、激しい描写はないが、生きていること、おこなったことの哀しさがしみじみと伝わってくる。

それとユーモア。ホテルの客室係の女性たち4人が本を読んでいて、昼休みの時間をしっかり起きていたと証言する。彼女たちは非常に興味深い本を順番に朗読していた。恋愛小説ではなくエンゲルスの「家族、私有財産および国家の起源」。二人が大学院生ということだ。女性と学問について批判した警察の副署長に通訳の女性がつっかかって激しい応答。この本はわたしも若いときに読んだので笑った。

ユーモア、その2。ジュリアのペティコートとスリップの裾がスカートより長くて困っていると、仲良くなったメアリルーがハサミで切り取ってくれる。その後もスカートの裾を直してもらうが、メアリルーの部屋で下着姿のまま話していたら彼女が主婦の生活の話をしているうちに泣き出し、ジュリアが抱いてあやしているところへ、ご主人がノックをせずに入ってきておかしな雰囲気に。

サラ・コードウェルは女性で、オクスフォード大学で法律学を学び、卒業後はウェールズ大学で法律学を講義し、その後、ナンシー大学でフランス法を学んだ。
テイマー教授のシリーズは4冊あり本書は第一作。いま検索していたら、テイマー教授は年齢・性別不明なんだって。そうかヒラリーって女性かなって思ったけど、男性でもある名前かなと思い直したんだった。
また読みたい作家ができた。
(青木久恵訳 ハヤカワポケットミステリ)