酒井隆史『通天閣 新・日本資本主義発達史』読了

ふうふういいながら734ページを読み終った。暑さの中を読むだけで大変やったなあというのが感想である。

最後に心に残ったところを引用する。
逸見直造は訴訟をよく起こす人で、しつこい乱れ打ちの訴訟を行っている。
【問われるのは、主要には法廷での勝ち負けではない。玉川しんめいは、逸見直造の好む表現として「裁判に負けても負けへん」というものをあげている。裁判は、みずからの介入する力のゲームの結節点の一つに過ぎず、たとえそこで負けたとしても、ゲーム全体では勝利していることもある。逸見直造が身をもって表現する哲学とはこれだ。】

借家人運動のしたたかさ。
【帰国後の長屋経営失敗の経験から、〈払えぬものは払わなくてよい〉という「店子の思想」を編み出した逸見直造は、水崎町の家を借りるや、即座に悪徳家主との闘争を開始した。その家は「借家戦試練の家」と名付けられる。まさに占拠という直接行動を通して、身をもって借家人の権利はかくあるもので、かくして克ちとらねばならぬことを示そうというのである。】
こういう逸見直造の〈アメリカ/大阪横断的急進プラグマティズム〉がすごい。

大阪でのデモについても詳しい。
1920年(大正9年)に行われた「大阪史上初の大型デモ」といわれた府選要求大行進のデモコースは、中之島公園を出発して長堀通りで西に折れ四ツ橋筋を北上して梅田阪神電車前へと進んで梅田新道を通って中之島公園にもどったとある。

日本労働総同盟大阪連合会の別働隊と自ら名乗る野武士組の活発な活動、そして女給同盟についても知らなかったので勉強になった。
【女性とサービス業との問題を労働運動において先駆的に提出した女給同盟であるが、道は険しかった。】と結んでいる。

知らなかったことがばんばん出てくる。そしてそれは歴史の勉強ではなく、いまのデモをどう考えるか、女性問題をどう考えるかに繋がってくる。
最後のほうで釜ヶ崎を描いた文学作品と映画の話がまた出てきて、そのどちらも知らないことが多い。それらをこれから読んだり見たりは時間がないから本書で読んで知ったことで満足しておこう。
(青土社 3600円+税)