小津の作品で映画館で見たのは「東京物語」(1953)と「晩春」(1949)だけだ。小津の映画をあまり好きでなかった。だけどなぜか「東京物語」のいろんな場面をいまも鮮明に思い出す。
「晩春」は娘と父親が娘の嫁入り前に旅行するのだが、旅館の同じ部屋に布団を並べるところがなんかいやだった。そのことについてはいろいろと説があるのを最近ネットで知った。
岡田茉莉子の自伝「女優 岡田茉莉子」(文藝春秋)は、日本映画の全盛期が終わっていく時代に映画スターとして輝いた彼女の長い映画と人生が語られている。関わった映画監督たちも多数で、日本映画史になっているのも素晴らしい。
小津監督は岡田茉莉子の父、岡田時彦の映画を撮っており、茉莉子のことを〈お嬢さん)と呼んで可愛がってくれたが、茉莉子が女優になったのは小津監督の晩年であったため、出演映画は「秋日和」(1960)の他には「秋刀魚の味」(1962 遺作)の2本だけだ。
「秋日和」
「彼岸花」についで里見弴の原作をもとにした2本目の作品。原節子がはじめて母親役を演じている。娘アヤ子が司葉子で、岡田茉莉子はアヤ子の仕事の同僚であり親友で下町の寿司屋の娘の百合子。
原節子の夫の七回忌に集まった親友3人(佐分利信、中村伸郎、北竜二)の会話はアヤ子の結婚になり、佐分利信の会社の社員佐田啓二が候補にあがる。しかし話が進まないので、母親が先に結婚するのがいいと、独身の大学教授 北竜二に話が向かい、本人もその気になるが、母親のほうはその気になれない。アヤ子は自分に黙って母親が結婚すると誤解し百合子に話す。百合子は中年の3人を集めて糾弾する。
原節子は自分は一人で暮らすからとアヤ子に結婚するように説得する。
アヤ子の結婚式の夜、ひとり質素なアパートにもどった母は寝床を整える。そこへ式後に銀座へ出かけた帰りの百合子が訪れ、これからもときどき寄りますねと伝えて帰っていく。
吉田喜重「小津安二郎の反映画」(岩波書店1998年発行)が明日あたり届くのでしっかり勉強するつもり。