ジェームズ・ボールドウィン『もう一つの国』のここが好き

長いこと愛読している本のうち、特に何度も読んで、これからも何度も読むだろう本が何冊かある。くたびれ果て変色した本の背表紙をとり本文の背を切り揃えてスキャンして電子書籍化しiPad miniで読めるようにしてもらった。古い本が生き返ってiPad miniの画面に現れた。この本、ジェームズ・ボールドウィンの『もう一つの国』(集英社)は絶版らしいから貴重だ。

全部読み通すと複雑な内容なのでそこらは後回しにして、わたしが読むのは197ページ。
ある春の夕方パリ在住のアメリカ人作家エリックはサン・ペール街を歩いていた。向こう側の道を歩いていた青年が抱えていた携帯ラジオからベートーベンの「皇帝」が聞こえてくる。エリックは青年イーヴに続けて聞かせてと頼む。二人は並んでベートーベンを聞きながら歩く。エリックはイーヴのお腹が空いているのを感じて晩ご飯に誘う。そして恋がはじまる。
ここだけ読むと納得して本を閉じる。前も後ろもあったもんじゃない。この恋のシーンの美しさが大好き。