皆川博子『開かせていただき光栄です』

土曜日から読みはじめてさっき読み終わった。わたしとしてはすごく早いペースだ。日曜日なんか夜になると目がしばしばしてたのに離せず、月曜日の外出でひと休みしたのが目に優しくてうれしかった(笑)。
ツイッター等で評判が良いので読んでみようと思ったのだが、皆川さんの本を読むのははじめて。しかも変わったタイトルにためらったが買おうと決めてからはさっさと書店で見つけた。買ってよかった、読んでよかった。

18世紀のロンドンが舞台で、ディケンズの時代より少し前になるが、ロンドンの雰囲気は同じようにというか、ディケンズの世界にいるような気がしていた。それに登場人物表の名前が全部カタカナというのが翻訳探偵小説を読む雰囲気である。そしてはじまった物語は翻訳小説っぽいけれども、すこし古い時代の日本文学、例えば泉鏡花や中野重治を思わせる。すべて印象だけだけど。

物語の舞台はロンドン聖ジョージ病院の外科医ダニエル・バートンの私的解剖室。5人の弟子たちに囲まれてバートン医師が妊娠した女性の遺体を解剖している。誰かが来たという連絡で作業を中止し、弟子たちはかねてから作ってあった隠し戸棚に解剖途中の遺体を隠す。来客はジョン・フィールディング判事の部下の犯罪捜査犯人逮捕係たちで、今回バートンが墓あばきから買い取ったのは準男爵の令嬢エレインだという。妊娠6ヶ月のご令嬢のことを弟子たちはなにも知らぬと言い張る。彼らが帰った後に判事の義妹で助手のアンとその助手の逞しいアボットがくる。当時は働く女性は下働きの貧民だけで中流以上の女性は家庭にいるので、アンは男装して、判事の目になって活躍している。アンの目は鋭い。
アンとアボットが帰った後、隠し穴から顔を砕かれた死体が見つかる。

舞台が変わる。17歳のネイサン・カレンは駅馬車で長旅をしてロンドンに着く。彼は文学で身を立てようと、教区の牧師が彼の才能を認めてくれたのを励みに出てきたのだ。道を尋ねながら歩いているとき二人の青年と出会う。バートンの弟子エドと解剖のスケッチ画を描くナイジェルだ。意気投合してカフェで話し合う。下宿したネイサンは出版社へ行く。そこにエレインがいて知り合う。その後、喫茶店で「マノン・レスコー」を音読するように頼まれ、短くも楽しい日々を過ごす。

解剖台にのっていた妊娠中の女性はネイサンが敬っていた貴族の令嬢エレインだったのが早くからわかるが、物語はネイサンにかかわるところと、エドとナイジェルにかかわることが交差して進む。
判事と助手のアンの活躍、いかにも18世紀の悪いやつっぽい悪漢。娼館薔薇亭の賑わい。わくわくと読んだ。
(早川書房 1800円+税)