ヘニング・マンケル『背後の足音 上下』(3)

いま二度目を読んでいる最中である。下巻の途中までいった。最後がわかっているので気持ちがラクだから、ここが好きだなぁというところを何度も読んだりしている。出てくる女性がそれぞれみんな気持ちよい。

今回のヴァランダーは糖尿病を認めたくない50歳を前にした悩める警察官である。もうちょっとで車の事故を起こすはめになったり、いくらでも水を飲みたくなり、トイレが近くなり、疲れて棒のように感じる足で働いている。

くたびれ果ててもうこれ以上運転できないと思う。食べ物と睡眠が必要だ。道路沿いのカフェでオムレツとミネラルウォーターとコーヒーを注文した。注文を受けた女性は「あなたのお年では、ちゃんと夜は眠らなければ」とやさしく言い、そして手鏡を出してヴァランダーの顔を映してくれた。そして厨房の後ろに小部屋があってベッドがあるから使っていいという。車よりも眠れるでしょうとの言葉に甘えて横になり寝すぎてしまうのだが。「眠れるだけ眠らせてあげたかったのよ」とエリカはヴァランダーが起きるまで待っていてくれた。エリカは警官と結婚していたが離婚している。こんないい出会いをしたんだからヴァランダーとつきあったらいいのにね、と勝手に思うのであった。

ヴァランダーは女性に優しい。捜査中にアルコール中毒者の妻と話すが「でも、あたしはあの人がいなくなって寂しいわ」というのに、「わかると思う。親しくなければわからない面を人はだれでももっているものだから」と答える。
【その言葉を聞いて、ルートははうれしそうだ。ほんの少しのやさしい言葉で人を喜ばせることができるのだ、とヴァアンダーは思った。距離をおく態度と理解しようとする態度のちがいはほんの少しなのだ。】

ヴァランダーは大変な捜査の途中で、警察署長リーサ・ホルゲソンと部下のアン=ブリット・フーグルンドの二人の女性が自分の味方だと思う。受付のエッパもそうだ。エッパがヴァランダーに頼まれて家に行くところは、いつまでも帰ってこないので心配した。もうすぐ年金生活に入るというのに。
(柳沢由美子訳 創元推理文庫 上下とも1200円+税)