ジョージェット・ヘイヤー『紳士と月夜の晒し台』続き

弁護士でヴェレカー兄妹と仲が良い従兄弟のジャイルズと、担当になったスコットランドヤードのハナサイド警視は事件を調べるにつれ、話が合うようになる。検死審問が行われた日の夜、ジャイルズはハナサイドを家に招いてチェスに興じたあと話し合う。この事件にはまだなにか起こりそうな気がするとジャイルズは思う。
翌日のヴェレカー家では家政婦のマーガトロイドが大掃除をはじめるが、手伝っていたヴァイオレットがアントニアのビューローに拳銃を見つける。きちんとしまっておくようにいうヴァイオレットをアントニアはこともなげにあしらう。
部屋が片付きお茶にしようとしたとき新しい来客がある。死んだと思っていた次男のロジャーが7年ぶりに外国から帰ってきたのだ。これで遺産はロジャーのものになる。殺人のあった夜には彼はすでにイギリスに帰っていたことがわかる。彼は名も知れぬ女性とどこともわからぬ場所にいたというのだ。
やがてアパートでロジャーの死体が発見される。

巧妙に意図された殺人事件が賑やかな主人公たちの会話のうちに進行していく。貧乏であっても品のある兄と妹と幼なじみのレスリーに比べると、美人だが貧しい階級から這い上がったために卑しく描かれるヴァイオレットが可哀想。そしてアントニアが婚約を解消するルドルフも可哀想。なんだかなあって感じもする。

アントニアがジャイルズに言う。「ルドルフとヴァイオレットよ。あの人たちはお似合いの二人だわ。どうしてもっと早く気づかなかったのかしら。考え方がそっくりなの。」そして、アントニアとジャイルズは結ばれる。ロマンス好きにはたまらない。
(猪俣美江子訳 創元推理文庫 980円+税)