メアリ・バログ『婚礼は別れのために』

読み出したらやめられなくて2日で読んでしまった。ストーリーづくりがうまいのと日本語が読みやすいからだと思う。ジェーン・オースティンの時代の物語をいま書いている〈時代小説〉である。ヒロインのイヴの性格は「高慢と偏見」のエリザベスとよく似ている。荘園の相続問題が柱になっていて、いやな従兄弟のものになりそうになるのも似ている。現実にこういうことが多々あったのだろう。

貴族階級に対してブルジョワ階級が勃興してきた時代、ヒロインの父親はウェールズの炭坑夫だったが、社長令嬢と結婚して猛烈に働き富を手にした。妻の親も同じようになり上がった人だろうと思う。ディケンズの作品でもお屋敷で働いていた一家の息子が豊かな工場主になった話があった。

そんな時代背景を考えながら、ロマンスに酔いしれていた(笑)。ヒロインは美しくて誇り高い。父親に譲られた荘園にウェールズから大伯母を引き取り、生活に困っている人を雇い入れ、親の亡い子どもを二人わが子のように育てている。大伯母は炭坑で石炭を運んで何十年も働いていた人だ。

ある日突然、イヴの屋敷へイヴの兄が戦死したことを告げにエイダン・ベドウィン大佐が訪れる。たった一人の兄の死にショックを受けるイヴ。まだなにかあるとみたエイダンは、兄がもどらずイヴが結婚しなければ、この荘園があと5日で従兄弟のセシルのものになることを知る。イヴの兄の死の間際に約束した言葉を思い出し、迷った末にエイダンはイヴと結婚するしか手がないと思う。

二人はロンドンへ行き特別許可を得て結婚する。そのまま別れるつもりだったが、イヴのことを考えていっしょに荘園へもどり、村でのパーティに参加する。だんだんイヴに惹かれていくがまだ義務感である。5日経って従兄弟がやってくるが結婚したと追い返す。

エイダンは貴族階級に属し兄が家督を継いでいて彼は二男で軍隊に入った。家にもどって結婚したというと波紋が起きる。結婚したからにはレディ・エイダンになって女王陛下に拝謁しなければいけない。イヴを連れに行き、叔母に頼んで貴族の教育を受けさせ、無数のドレスを注文する。従順で終わらせないイヴの勝ち気さが小気味よい。

エイダンもイヴも相手に惹かれていくが、大切なパーティにイヴの昔の恋人が現れたり、いろいろとあって、物語にうまく引っ張られてどうなっていくやら、はらはらどきどき。最後はうまくおさまってめでたし。セックス場面もほどよくあって楽しませてくれた。
(山本やよい訳 ヴィレッジブックス 860円+税)