ピーター・トレメイン『死をもちて赦されん』(1)

長編小説(1)「蜘蛛の巣 上下」(2)「幼き子らよ、我がもとへ」(3)「蛇、もっとも禍し 上下」を読んで感想を書いているが、(3)の感想をまだ書いてなかった。もう一度読んで書かなければ・・・。短編集(1)「修道女フィデルマの叡智」は感想を書いているが、(2)「修道女フィデルマの洞察」はまだ買っていない。ということは読み直して書かねばならぬのが1冊手元にあり、これから買って読まねばならぬのが1冊あるということだ。

今回読んだのは最新刊の「死をもちて赦されん」で、〈訳者あとがき〉で説明しているけど、本書はフィデルマシリーズ最初の作品である。7世紀アイルランドという特殊な舞台を描いたこのシリーズを訳するにあたって、日本人読者にわかりやすいと思われるものから訳したそうである。だから「蜘蛛の巣」を読んだとき、フィデルマとエイダルフは旧知の間柄であった。

シリーズ第1作の本書で登場するドーリィー(法廷弁護士)のフィデルマは、男性4人ともう1人の女性との旅の途中で木に吊るされた修道士の遺体を見つける。そこで会った修道士と修道女にこの国の状態を聞く。この国を治めているのはオズウィー王だが、息子は新しい妻を迎えた王に向かって敵意を抱いているようだ。フィデルマはアイルランドでは身内の中でもっとも優れた者が後継者になるが、サクソンでは長男が相続するのが理解できないとため息をつく。
突然目の前に海が現れ水平線が彼方に広がる。旅の終わりだ。ストロンシャル修道院の黒い建物が見える。

サクソン人のエイダルフ修道士は船でやってきた。彼は世襲の代官の地位を継ぐべきところを20歳のときに背を向け、古の神々への信仰を捨ててアイルランドから伝えられた新しい神に帰依した。アイルランドのダロウの学問所で学び、医術と薬学に興味をもった。アイルランドともブリテン島のものとも違うローマのキリスト教が違うのに気がつき、ローマへの巡礼に出かける。その結果、ローマ教会のキリスト教原理に献身しようと決意した。
いまエイダルフがやってきたのは、国内外から聖職者がウィトピアへと集まって来つつあるストロンシャル修道院である。帆船は聳え立つ断崖に次第に近づいていく。

【アイルランド・カトリック教会の信徒とローマ派の聖職者の間では、両者の教義をめぐり、長年にわたって論争が戦わされていた。その軋轢が今、ブリテン島において解決されようとしているのだ。】
(甲斐萬里江訳 創元推理文庫 1200円+税)