マイケル・コックス『夜の真義を』のお屋敷

「夜の真義を」の主人公エドワード・グラブソンは幼年時に大きな屋敷に連れて行かれたことがあった。そのときの印象を大人になっても覚えている。
いま好意をもって遇してくれているタンザー卿の秘書に伴われて訪れたのは、タンザー卿の大きな屋敷である。エドワードはこここそ子どものときに行った場所だと確信する。すばらしく美しい敷地に建つ屋敷である。〈訳者あとがき〉によると、マイケル・コックスは本書を書くにあたってイギリスの三つの実在の場所を参考にしたとある。
そのひとつが〈ストップフォード-サックヴィル家の私邸〉とあるのに気がついた。サックヴィルだったら覚えている。ヴァージニア・ウルフの「オーランドー」だ。ウルフの親友で恋人だったヴィタ・サックヴィル・ウェストの屋敷。ヴィタの息子ナイジェル・ニコルソンが書いた「ある結婚の肖像」にも出てきたわと思って本を2冊出してきた。写真がある。このお屋敷が〈ストップフォード-サックヴィル家の私邸〉であるかどうかはわからないけど、とりあえず素晴らしく大きな屋敷なので、ここと思って屋敷を訪れるシーンをまた読むことにする。
今夜はせっかく出してきたことだし、「オーランドー」を広げてヴィタとヴァージニア・ウルフのことを偲ぶか。
(越前敏弥訳 文芸春秋 2619円+税)