「優しい幽霊シリーズ」の3作目。これで貸していただいた本は読み終わった。
ロリとビルはイギリスのディミティおばさまが遺してくれた家で生活をはじめる。前作の終わりにロリの妊娠がわかり、本書は予定日より1カ月早く産まれ保育器のお世話になったが、無事に家に帰って育児中のところからはじまる。ビルは自転車で通勤し贅肉も落ちてきたし家庭を大切にするようになった。
ロリは育児に疲れてへとへとになって身なりをかまうヒマもない。そこへ知り合いの老姉妹が助っ人としてフランチェスカを連れてきた。フランチェスカは病気の両親の世話と兄の子どもたちの世話をしてきた苦労人。環境を変える意味でもここに住んで働かせてほしいと老姉妹は言う。
フランチェスカはイタリア人で父親は第二次大戦の戦争捕虜だった。北アフリカで捕虜になり、この村の農場で労役につき、連合国がヨーロッパで勝利した後に地元の女性と結婚した。6人の子どもはイギリス人として育った。しかしスキャパレッリという姓のせいで心の狭い人たちからは疎まれている。
古い意識の人たちがいる村ではロリとビルも新参者である。いかに村人たちとつき合っていくかがテーマになっていて、そこにユーモアが色を添える。
もう一つのテーマは前の2作にも言えるけど、第二次大戦の影や悲劇がイギリスに暮らす人たちにどう影響を与えたかということ。イギリス人だけでなく、フランチェスカのように親が捕虜であった人についても語りたかったのだと思う。
ロマンチックで笑える物語なのに、こういうところで筋が通っている。
亡くなったディミティおばさまがロリに語る。
【1914年から1918年にかけての戦争で多くの死傷者が出たことで、霊能者が多く求められるようになったのです。わたしの子供時代、世の中では精神世界が大流行してましたよ。最近になってまた、精神世界が流行ったでしょう?】
(鎌田三平・朝月千晶訳 ランダムハウス講談社文庫 860円+税)