言うまいと思えど今日の寒さかな

言うまいと思えど今日の寒さかな。はるか昔、こどものころ寒い日に家族の誰かがいい、先にいった者勝ちみたいな雰囲気だった。こどもがごろごろ何人もいて、夕方近くなるとあまりの寒さに外遊びをやめて火鉢のまわりに寄ってくる。結んだ手を並べて「ぼんさんがへをこいた」とか「だるまさんころんだ」「せっせっせー」とかやったものだ。トランプや花札や百人一首もよくやった。あまりの寒さに練炭火鉢に顔を寄せて「そんなことをしたら死ぬよ」と怒られたことがあった。
ほんまに寒かったんや。時代が貧しく我が家は貧乏人の子だくさんやった。

いまは家の中は暖房のおかげで暖かいし、外に出ても長時間いるわけないから、「寒かったー」とか「今日は寒いなあ」と口に出すだけで終わる。いちばん寒いのは洗濯物を干すとき。
暖かいセーターを着て膝掛け毛布をかけて厚手ソックスをはいて坐っていると、ガスファンヒーターが暖かい空気を送り出す。ありがたいこっちゃと思いつつ「言うまいと思えど今日の寒さかな」の情緒にひたる。