川端康成『虹いくたび』

クリスタ長堀の本屋さんで目についた文庫本。去年の3月に46刷改版とある。出てるのを知らなかった。

昭和25年3月号から26年4月号の『婦人公論』に連載された作品で、作者50歳から51歳のときと北条誠の解説にあった。北条誠とはなつかしや、雑誌『ひまわり』にすごーく甘い連載小説を書いていた作家だ。
このころの「婦人公論』が家にあったのか、読んだ記憶がある。もしくは単行本になったのをのちのち読んだのか。どっちにしても昔のことだ。
川端康成といえばずっと『乙女の港』だったから、そのあとに読んだのならずいぶん薄気味悪かったんじゃなかろうか。『雪国』とかのあとなら納得したかしら。昔のことで思い出せない。『ひまわり』連載の『歌劇学校』もどっかじめっとしたところがあったっけ。

百子、麻子、若子の父親が同じだが母親がそれぞれ違う3姉妹の物語。百子は戦争で恋人を亡くして、戦後のいまは少年たちと遊び戯れている。結婚せずに百子を生んだ母親は自殺し、父親に引き取られて妹の麻子といっしょに住んでいる。若子は京都で母親とともに暮らしている。麻子はまだ会ってない妹を探しに京都へ行ったけどわからなかった。
建築家の父親は東京から娘を連れて京都や箱根によく出かける。麻子と父親は箱根に行ったとき別行動の百子が美少年を連れているのに気がつく。黙って自分たちの宿に行った父と娘。父が温泉に入っていて、そこに麻子が入っていく。美しいはだか〜 ああ、びっくり〜 父と年ごろの娘が同じ風呂に入る〜(小津安二郎の『晩春』では父と娘が宿でふとんを並べて寝てたけど、あれに匹敵するショック)

そこでちょっとひっかかったけど、『古都』や『山の音』に比べると完成度が低いけど妖しいところのある作品で気に入った。もう一回読もう。
(新潮文庫 550円+税)