ルース・レンデル「ひとたび人を殺さば」続き

物語がおもしろく推理の過程もなるほどと感心するのだが、とっとと読んでしまったらもったいない。ロンドンの街の様子がよくわかるのだ。観光的には甥の妻がどこどこに行ってらっしゃればと、散歩と観光に適したところを教えてくれる。はじめはその言葉に従って名所を訪ねていたが、甥のハワードが関わっている事件を新聞で知ると、居ても立っても居られずという感じで下町の墓所まで行ってしまう。そこでハワードと鉢合わせし、バツが悪い思いをするが、ハワードはいっしょに捜査にあたってほしいと言ってくれる。

娘の死体が見つかった墓地に面した建物は1870年頃に建てられた醜悪なものだ。娘の住んでいたガーミッシュ・テラスは不潔で耐えられないところだが、管理人は若いころの美貌の面影が残り、今回ロンドンへ来ていちばん美しい女性に会ったと思う。ウェクスフォードの美女とはハリウッド女優のキャロル・ロンバートやロレッタ・ヤングというのに微笑を誘われた。ガーミッシュ・テラスはいずれも不潔な部屋ばかりなのに、上階に住むゲイの男の部屋を訪ねると清潔で素晴らしいインテリアである。そして上流階級の言葉遣い。こんなことも実際ありそうで興味を持って読めた。

ウェクスフォードの滞在中はいつも雨でさむざむとした感じがロンドンって感じ。帰る日にようやく晴れる。それとパブの描写がいい。食べ物や酒やそこに居る人たち。
(深町真理子訳 角川文庫 544円+税)